特許・論文

中央研究所報2008年 Vol.15

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.1-28

空間シミュレーションルームによる天井ブリーズライン空調方式に関する研究

立野岡誠

天井ブリーズライン方式によるペリメータ空調システムは、OA機器が多く導入されるインテリジェントビルを中心にその採用が増えつつあるが、適切な設計基準は確立されていない。本研究では、ペリメータ空調方式としてブリーズライン型吹出口を用いた場合の、設置位置や長さなどの形状に関する設計基準を作成するために、温熱環境の特性を把握することを目的とした。
冷房条件と暖房条件の実験を行い検討した結果、室内温熱環境が良好となるブリーズラインの吹出条件を示した。冷房時のブリーズラインの吹出条件は、吹出口を2 本に分割しブリーズラインの長さの合計をスパン幅の半分とすること、ブラインドの上端に向って吹出す水平吹きとすること、吹出口を窓から1 m程度離して設置することである。暖房時は、冷房を基準とした吹出条件を採用した場合に良好な室内温熱環境になるとは限らず何らかの工夫が必要である。すなわち、良好な室内温熱環境を達成する方法として、ペリメータの供給熱量を等しくしたまま給気風量を60%レベルの範囲で減少させることが有効であることを明らかにした。なお、本報は「空間シミュレーションによる天井ブリーズライン空調方式に関する研究 (2007年博士論文) 」からの抜粋である。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.29-42

クロロフィル蛍光を用いた屋内植栽樹のストレス判定に関する研究

佐川美佳、蔵田憲次*1

屋内に植栽した樹木の良好な生育と美観を保持するためには、専門家による高額な管理費用がかかる。そこで専門家でなくとも、簡単に樹木の生育を管理できる技術の開発を試みた。本研究では、屋内植栽樹のストレスを非破壊で簡単に判定できる方法を検討した結果、葉内の色素などから得られる蛍光情報に着目した。そして、樹木の葉のクロロフィル蛍光誘導期現象を測定した結果、ストレスの判定法として、第2次導関数法とパラメータMM法の2 つを提案し、 (1) クロロフィル蛍光誘導期現象が屋内植栽樹のストレスを検知すること、 (2) 誘導期現象の一部を数値化し、ストレスの有無をほぼ判定できること、 (3) 安価で実用性の高いポータブル測定装置の製作が可能なこと、を明らかにした。なお、本報は「クロロフィル蛍光を用いた屋内植栽樹のストレス判定に関する研究 (2005年博士論文) 」からの抜粋である。

*1 東京大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.43-50

化学物質過敏症治療施設における
化学物質除去用活性炭の開発および建築部材の決定
化学物質過敏症治療施設の開発 その1

三上秀人、湯懐鵬、横山真太郎*1

化学物質過敏症 (CS) は化学物質の急性曝露あるいは低濃度の慢性曝露によって過敏性を取得し、その後に極低濃度の化学物質曝露によりアレルギー様の症状を示すようになる健康障害である。症状は様々で、疲労感、頭痛、倦怠感、腹痛やぜんそく、皮膚炎など多岐にわたる。CSを診断・治療するには、空気中の汚染物質を除去した専門の治療施設が必要とされており、その清浄度目標値はVOCで10μg/m3、非メタン炭化水素 (NMHC) で30μg/m3である。
治療施設内の清浄度目標値は外気濃度よりも低いため、導入外気は汚染物質を除去する活性炭フィルターが必要であり、室内で発生した汚染物質を除去するために、循環系統にも活性炭フィルターが必要である。一方、建築部材から発生する汚染物質は室内を汚染すると共に、循環系統の活性炭フィルターのコストを高めるため、極力汚染物質の発生の少ない建築部材を選定する必要がある。本研究の目的は、CSの診断・治療施設の建設に先立ち、汚染物質の濃度を低減する技術を確立することであり、本報はその第1報として、治療施設用に開発した特殊活性炭の性能試験と、治療施設の建築部材の選定についての報告である。
粒状炭を充填した充填式の活性炭フィルターは長寿命であることから、大風量を処理する場合に使用されるが、発塵量が大きいため、二次側にHEPAフィルターなどの塵埃除去フィルターが必要である。HEPAフィルターはアウトガスの問題と僅かな特有の臭気の問題があり、治療施設では活性炭フィルターの2 次側に設置すべきではない。そこで、筆者らは発塵を抑制するために、活性炭表面を珪酸ナトリウムで被覆した特殊活性炭 (SAC) を試作した。SACは、椰子殻活性炭を珪酸ナトリウム溶液に含浸して減圧し、その後乾燥して作成した。このSACと市販の椰子殻活性炭について、寿命と発塵の点について性能評価を行った。
寿命試験はFig. 1に示す実験装置において行った。試験用ガスにはベンゼンを使用し、ホルムアルデヒドについても同様の試験を行った。濃度を一定に調整した空気を供試活性炭に流通させ、経過時間と除去率の関係を調べた。発塵試験はFig. 2に示す実験装置において行った。SUS容器に供試活性炭を入れ、HEPAフィルターでパーティクルを除去した空気を流通させ、発塵量を測定した。
ベンゼンの寿命試験結果では、SACと市販の活性炭の寿命は同等であった。除去能力は活性炭単位体積あたりの吸着量で決定されると仮定して、東京都心部の外気を導入した場合の寿命を試算した。東京都心部のTVOC濃度をベンゼン濃度に換算して0.5mg/m3とすると、6000時間と試算された。ホルムアルデヒドの寿命試験結果では、両者とも寿命が非常に短いことが確認されたが、除去率50%以下に低下した後の除去率は、SACの方が優る結果を得た。発塵試験の結果では、SACの発塵量は椰子殻活性炭の1/6以下であり、珪酸ナトリウムによる表面被覆は発塵の抑制に有効であることを確認した。
次に、建築部材の決定を目的として、Fig. 3に示す小形チャンバー法によりアウトガス試験を行った。試験方法はASTM D5116−90に則った。試験の結果、SUS304、ガルバリウム鋼板、ホーロー鋼板および御影石からはアウトガスは検出されなかった。アウトガス量および視覚的なストレスの観点から、天井および壁にはホーロー鋼板、床材には御影石を採用することとした。カオリン、ロックウールおよび珪酸ナトリウムを混合して試作した新しい目地材からは、アウトガスは検出されなかった。ガスケットとしては、テフロン製ガスケットを採用することとした。ダクトや空調機、制気口などはSUS304を採用することとした。
以上の結果より、今回試作したSACの寿命は市販の活性炭と同等以上であり、発塵量は1/6以下に改善されたことから、化学物質過敏症の診断・治療施設において汚染物質除去用活性炭として使用できることを確認した。また、アウトガス試験により最適な治療施設の建築部材を決定したことにより、基本仕様を確立した。

*1 北海道大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.51-58

人工花粉曝露室 (OHIO Chamber) におけるスギ花粉症に関する予備的研究

橋口一弘*1、湯懐鵬、藤田俊雄、椿茂和*2、藤田雅巳*3、末松潔親*4、後藤穣*5、大久保公裕*6

季節性アレルギー性鼻炎 (Seasonal Allergic Rhinitis、略してSAR) を研究するために、人工花粉曝露室 (OHIO Chamber) が東京に建設された。この曝露室において花粉の濃度分布・安定性について良い結果が確認できたので、引き続きボランティアのSAR患者に対してスギ花粉症の発現に関する予備的な研究を行った。

*1 北里研究所病院
*2 左門町クリニック
*3 医療法人社団信濃会 信濃坂クリニック
*4 東京臨床薬理研究所
*5 日本医科大学千葉北総病院
*6 日本医科大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.59-64

大空間空調におけるファジィモデルを用いたゲインスケジュール制御に関する研究
第1報 モデリング手法の提案と適応性に関する検討

植田俊克、本多中二*1

多目的に使用される大空間の空調制御に関し、温度センサー位置の制約を受けずに居住域温度を制御可能な方法としてファジィモデルを用いたゲインスケジュールPID制御を提案する。さらに提案するファジィモデルと同値となる線形補間モデルを用いて制御シミュレーションを行い、センサー温度を居住域の代表温度とするPID制御と比較して、居住域全体を考慮した制御が可能であることを示している。

*1 電気通信大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.65-70

CFD解析における高速誘引ノズルの近似法に関する研究
第1報 吹出し口面積に関する検討

東恵介、加治屋亮一*1、酒井孝司*1、植田俊克

本研究の目的はCFDを用いた高速誘引ノズル近似法の開発である。吹出し噴流における最適なコア領域長さを算定できる近似法により、計算メッシュ数の削減および計算時間の短縮を目指す。本報では近似式の導出過程について紹介する。

*1 明治大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.71-80

室圧制御システムの研究 基本的な5つの室圧制御方式の実規模実験と評価

鈴木正美

室圧制御技術は、クリーンルーム、病院、医薬品製造施設において汚染物質の流入・流出を防ぐ重要な要素技術である。本研究では従来の差圧制御方式の性能を評価するために、定風量装置 (CAV) 、変風量装置 (VAV) 、室圧制御用モーターダンパ (MD) 、差圧ダンパ (RD) 等を用いた基本的な5つの室圧制御方式を設定し、外乱への応答性を比較検討したのでその結果を報告する。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.81-89

配管凍結部の耐圧性能試験

前田幸輝、岸本洋喜、井手克則、原田英雄

凍結工法は、運転を停止できない系統の配管工事や工事時間の制限により水抜き水張り作業の時間を短縮したい工事、経年劣化により止水不能となったバルブの交換工事などのリニューアル工事に採用されてきた。しかし、凍結工法は経験に基づく作業員の勘に頼る部分が多く、不確定要素が多いことから、実施計画を立てる際、作業時間などかなり多めに見積もっておく必要があった。そこで、凍結工法を計画および実施する際に必要な液体窒素消費量、閉塞所要時間、凍結部の耐圧性能に関するデータを実験により求めた。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.15, 2008 pp.91-101

スタッカクレーンおよび大型基板の移動に伴うパーティクルの挙動解析

三國恒文、田辺恵一

本報では、液晶パネル工場のクリーンルーム向け自動倉庫内部のパーティクルの挙動を把握し、スタッカクレーン走行エリア天井部にFFUを設置した場合のパーティクルの巻き上げ抑制効果について検討を行った。検討手法として数値流体シミュレーション (以下、CFD解析と略す) を採用し、スタッカクレーンの移動および搭載カセットの昇降を考慮した大規模非定常解析を実施した。CFD解析の結果、FFUの天井設置はパーティクルの巻き上げ抑制に効果があることがわかった。

イノベーションハブ研究報告トップ

ページトップへ