特許・論文

中央研究所報2018年 Vol.25

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp1-10

ホルムアルデヒド除去システムの開発

穴井俊博、湯懐鵬、佐伯寅彦、岩間裕樹、牧野眞司*1、千葉直樹*1、江藤修*1、池田耕一*2

ホルムアルデヒドは、医療施設・医薬品研究所の病理検査室や解剖室で日常的に使用されている。2008年に特定化学物質障害予防規則が改正され、ホルムアルデヒドの管理濃度が0.1ppmに規制されたが、未だに管理濃度を超える施設は多く、早急な環境改善対策が求められている。一般的に採用されている対策法は、全外気方式の空調換気システムである。しかし、外気処理に伴う問題や局所排気装置などの設置による作業性の問題により、対策を実施できない場合がある。
この問題を解決する手段として、「アミノ酸を用いる湿式のホルムアルデヒド除去装置」と「U字型などの特殊な気流方式を用いた局所排気装置」から成る循環除去方式の空調換気システムを開発した。基礎研究と実規模試験で開発した要素技術によって、「0.1ppm以下の安全な作業環境の実現」、「病理検査に十分な作業スペースの確保」、「外気処理に関わる消費エネルギーの削減」という特長を有する空調換気システムを構築し、実物件で、その性能を実証した。

*1 都市環境事業部
*2 元日本大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp11-23

Model-Based Next-Best-View Planning of Terrestrial Laser Scanner for HVAC Facility Renovation

Eisuke Wakisaka、Satoshi Kanai*1、Hiroaki Date*1

Recently, 3D laser scanners have been introduced in the heating, ventilating, and air-conditioning (HVAC) industry. As-built three-dimensional (3D) facility models captured by laser-scanning have allowed for short surveying periods and in-depth construction planning. When scanning a highly tangled installation of piping objects and ducts in HVAC systems using a terrestrial laser scanner (TLS), it is difficult to manually choose a feasible scanner placement to scan the necessary objects areas for construction with high quality without any occlusion. Therefore, we propose a model-based next-bestview(NBV) planning method for TLS. This method utilizes a coarse 3D model generated by structurefrom-motion (SfM), and finds a near-optimal scanner placement that maximizes scan coverage while satisfying the constraints on the factors influencing scan quality such as the beam incident angle, scan range, and scan overlap. The constraints are imposed on the basis of user-specified scanning priority levels. Scanner placement is determined based on the voxel-based space occupancy classification.
In this study, the details of the proposed NBV planning algorithm were explained, and the superiority of scanner placement using the proposed method was verified through a comparative evaluation of the modeling accuracy with scanner placement carried out by an experienced operator.

*1 Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp25-34

熱源・空調システムの最適制御技術の導入に向けた研究
第1報 冷却水温度の設定値最適化と実測による効果検証

矢島和樹、福井雅英、赤司泰義*1、桑原康浩*2

BEMSの普及により、熱源・空調システムの運転データが詳細に把握可能となり、複数機器を組み合わせた複雑なシステムの運用時の無駄、すなわち、さらなる省エネルギー化の余地が明らかになってきた。本研究では、外気条件や負荷条件に合わせて適切な運転を行う最適制御技術の確立を目的とする。
本報では、エネルギーシミュレーションツールであるLCEMツールを用いて、冷却水温度などの設定値を変化させたときのエネルギー消費量の傾向を把握し、冷却水温度の最適な設定値と外気湿球温度の関係式を導出した。また、導出した関係式による制御を実システムに導入し、従来の制御方法に対する有効性を実証実験により確認した。

*1 東京大学大学院
*2 エム・ティー・ディー株式会社

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp35-41

Development of UAV Indoor Flight Technology for Building
Equipment Works

Hiroyuki Tomita、Takuya Takabatake、Shintaro Sakamoto、Hitoshi Arisumi*1、Shin Kato*1、Yuji Ohgusu*1

In the Japanese construction industry, unmanned aerial vehicles (UAVs) have begun to see use for outdoor work. On the other hand, most work involving building-equipment systems is performed indoors, and is often performed in contact with the surrounding environment near the ceiling.
Air-volume measurement is an example such work near the ceiling. Conventionally, a worker would climb a temporary scaffold to approach the ceiling to measure the air volume just under the diffuser installed there with a handheld anemometer. This conventional work has low productivity and high costs in terms of safety management. Furthermore, it can be difficult to perform in structures with high ceilings, such as entrance halls and factories.
We have therefore developed a UAV for measuring air volume. A visual-feedback-control system for self-localization has also been developed, because global positioning systems cannot be used indoors. We analyzed the positioning errors of the UAV when hovering and when approaching and contacting the diffuser. We also evaluated the contact performance of the UAV to the ceiling by measuring the air volume. As a result, it was found that the UAV can ensure the necessary performance for air-volume measurement

*1 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp43-48

低湿度環境における人体からの発湿量低減方法に関する研究
(第4報)ブラシを用いたミニエンの性能評価

尾形甫、三上秀人、佐原亮、長澤雅俊

リチウムイオン二次電池や有機ELデバイスの製造工程では、ドライルームとよばれる低湿度空間が必要とされる。ドライルーム内の主要な汚染源は作業者から発生する水分であり、水分に敏感な製品はミニエンバイロメント(以下「ミニエン」という)を用いて保護されることがある。一般的にミニエンとして用いられるグローブボックスは、作業性が悪いだけでなく作業範囲が狭いといった問題がある。本報では、開口部にブラシを用いた作業性の良好なミニエン(以下「ブラシ型ミニエン」という)を製作し、性能検証を行った。その結果、ブラシ型ミニエンには良好な水分隔離性能があることを確認した。また外板材質の選定は、水分放出量や視認性を考慮する必要があることがわかった。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp49-53

ドライルーム用省エネ除湿システムの開発および性能評価

長澤雅俊、逢坂哲彌*1、横島時彦*1、三上秀人、佐原亮、尾形甫

リチウムイオン二次電池などの製造環境では、−30~−45℃DPのドライルームが必要とされており、研究用途としては、−75℃DP以下(微量水分領域)の環境が必要とされている。それらの除湿機では、除湿剤の再生エネルギーが非常に大きいという問題点がある。
本研究では、微量水分領域まで拡張した省エネ除湿システムを実機に導入し、1年間にわたり除湿機の運用データを収集し評価を行った。その結果、定格運転時と比較して、再生エネルギーを年間平均で31.5%、除湿機全体のエネルギーを年間平均で19.5%削減できることが確認された。

*1 早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp55-60

カイコ大量飼育装置および飼育ケージの開発

麻生由布、田中幸悦、横田昇平

近年、遺伝子組換えカイコによる有用物質生産が新たな産業として広がりをみせている。大量のカイコを効率的かつ安定的に飼育するためには、飼育作業の省力化、飼育に適した環境の構築、カイコの成育速度を揃えることが求められる。本研究では、これらを達成するために1齢から5齢までの幼虫を飼育する大量飼育装置および飼育ケージを開発した。開発品の性能を確認するために17,000頭の試験飼育を行った結果、飼育した幼虫の87.5%が繭となった。この結果を基に、装置の飼育可能な最大頭数である₇万頭を飼育した場合の繭の重量を算出すると、約19kg/m2となり、一般的な飼育法の約12倍となった。また、飼育に要した労働時間は繭1kgあたり0.8hとなり一般的な飼育法の1/3程度となった。これより、大量飼育装置および飼育ケージを用いることで、カイコを効率的に飼育できることを確認した。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp61-66

BIM活用に向けた熱源システムの最適化プロセスに関する研究
第1報 実務で扱う要素を設計変数とした運用時の制御を考慮した設計の多目的最適化

矢島和樹、植田俊克、前田幸輝、福井雅英、近都州彦、赤司泰義*1、林鍾衍*1

本研究では、設計者が常に熱源システム構成に必要な性能とイニシャルコストの情報を得られる「最適化プロセス」の構築を目指す。そのために、基本設計、実施設計、施工のそれぞれの段階において、熱源システムの制約条件や決定すべき項目が変化する中で、設計者がそれぞれの段階における最適解をオーナーに提案することができるプログラムを開発する。
本報では、実在する建物の熱源システムを対象に、ツール開発に先立って開発したシミュレーションモデルを用いてケーススタディを行った。熱源システム構成ごとのエネルギーとライフサイクルコストのパレート最適解を示し、その結果から意思決定者が、環境性と経済性を考慮しながら最適解を選択する方法について示した。

*1 東京大学大学院

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp67-72

熱源・空調システムの最適制御技術の導入に向けた研究
(第4報)冷水送水温度の最適制御手法の検討

近都州彦、植田俊克*1、前田幸輝、福井雅英、矢島和樹

エネルギーシミュレーションを用いたケーススタディから、熱源機の冷水送水温度の最適値を決定する最適制御手法を提案した。この手法を用いた場合のエネルギー消費量を試算した結果、冷水送水温度を一定にした制御の場合よりもエネルギー消費量が小さくなり、最適制御手法によるエネルギー削減効果が示された。また、空調機負荷の偏在がある場合における制御方法を提案した。

*1 管理本部 情報システム部

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp73-79

空気塊による空調システムの研究
その2 シミュレーションによる噴出部の検討

立野岡誠、三國恒文、赤木富士雄*1、山口住夫*1

本研究の目的は、渦輪を連続発生させて空気調和に応用することである。本報告では、渦輪の噴出部の形状をノズル状で₃種類検討し、それぞれシミュレーションにより渦輪の挙動を解析した。その結果、渦輪の移動距離が最も長くなった形状は、ノズルの外側にテーパーを付けた形状であった。

*1 福岡大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp81-89

角型のアネモスタット型吹出し口を対象としたCFDパーツのモデリング手法に関する研究
第1報 水平吹出し時におけるMomentum 法の適用と検証

深田賢、酒井孝司*1

建築設備分野での室内におけるCFD解析では、気流分布の予測精度に影響を与える重要な要因として吹出し気流の再現性が挙げられる。しかし、室内に設置される吹出し口の多くは複雑な形状を有しており、CFD解析モデルで詳細な形状を再現することは、計算時間や作業量を考慮すると実務の設計段階では困難である。そこで、本研究では気流性状が複雑となる角型のアネモスタット型吹出し口を対象として気流性状を把握し、汎用的に利用可能とするためのCFDパーツの作成方法について研究する。本報では、可視化実験により吹出し口近傍の気流分布を把握したうえで、構造格子系CFD解析にMomentum法を適用する際における境界条件の設定方法を検討し、実験結果と比較検証を行った。それらの比較結果より、本手法が設計や施工検討で重要となる拡散半径や室内の温度分布を実務上十分な精度で計算可能であることを確認した。

*1 明治大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol25,2018,pp91-99

ZEBを目指した中規模事務所ビルの計画と検証
その1 変風量コアンダ空調システムの室内環境および気流性状の把握

五十嵐瞳、秋元孝之*1、羽鳥大輔*2、平須賀信洋*2、千葉麻貴*1、高須眸*1、大畑翔平*1、植田俊克*3、坂本裕*4、山北桜子*4

ZEBを目指した中規模事務所ビル向けの変風量コアンダ空調システムについて、実大実験室を用いて温熱環境および気流性状の実験を行った。冷房運転においては、居住域を良好な温熱環境にできること、局所的なドラフトが生じることを示した。また、気流性状の簡易測定方法を考案し、冷房運転については局所的なドラフトを抑制し、暖房運転については良好な温熱環境を形成するための検討を行った。以上より、吹出温度差を6K以下とし、吸込口を吹出口下方の壁面に設けることが有効であることを示した。

*1 芝浦工業大学
*2 株式会社三菱地所設計
*3 管理本部 情報システム部
*4 丸の内支社

イノベーションハブ研究報告トップ

ページトップへ