特許・論文

中央研究所報2019年 Vol.26

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp1-7

プラント改修向けas-builtモデル構築のための地上型レーザスキャナの最適配置計画

脇坂英佑

近年、空調設備業界では、地上型レーザスキャナ(Terrestrial Laser Scanner:TLS)で計測した点群から既存設備の現況を忠実に再現した3次元モデル(as-built₃次元モデル)を構築し、調査期間の短縮と改修工事前の綿密な計画立案に活用されている。しかし、改修工事に求められる精度のas-built3次元モデルを構築するために、設備各部に要求されるレーザの入射角や計測距離の制約を満たすTLSの設置位置をオペレータが手動で決定することは困難である。そこで本研究では、事前調査時に既存設備をカメラで撮影した多数の写真からStructure-from-Motion(SfM))を用いて、計測対象のラフな₃次元モデル(SfMモデル)を生成し、レーザの入射角や計測距離、レジストレーションのための点群間重複の制約を満たし、計測必要箇所の計測率を最大化する最適スキャナ配置を導出する手法を提案した。また、実設備において、提案手法と熟練者が決定したスキャナ配置を比較し提案手法の優位性を示した。さらに、実務への展開時に求められる最適配置に対する要求条件を考慮した定式化へ拡張し、その効果についても計算機シミュレーションにより確認した。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp9-20

空調設備のas-builtモデル構築のための地上型レーザスキャナの最適配置計画

脇坂英佑、金井理*1、伊達宏昭*

近年、空調設備業界において、設備の現況を忠実に再現した₃次元モデル(as-builtモデル)を効率的に構築するために、3Dレーザスキャナが導入され始めている。本研究では、地上型レーザスキャナ(Terrestrial Laser Scanner:TLS)による空調設備の計測において、改修工事に必要な部位を高精度かつ漏れなく計測するためのスキャナ配置を決定するアルゴリズムを提案する。この手法は、Structure-from-Motion(SfM))により生成したラフな形状の3次元モデルを事前知識として使用し、可視性・計測距離・入射角の制約を満足する最適スキャナ配置を自動で探索する。本研究では、最適スキャナ配置問題を、分枝限定法を用いて求解する0-1整数計画問題として定式化する。さらに、3Dグラフィックを高速に処理する装置(Graphics Processing Unit:GPU)により、可視性制約の事前計算の処理速度を高速化した。その結果、提案アルゴリズムは、スキャン回数、計測率の観点で、貪欲法を用いた既提案手法の性能を上回り、モデリング精度の観点で、既提案手法と同等の性能を示した。

*1 北海道大学大学院情報科学研究科

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp21-30

熱源・空調システムの最適制御技術の導入に向けた研究
第2報 冷却塔ファン周波数の設定値最適化と実測による効果検証

矢島和樹、福井雅英、赤司泰義*1、桑原康浩*2

本研究は、建物の熱源・空調システム全体のエネルギー消費量を最小化する「最適制御技術」の確立を目的としている。
本報では、エネルギーシミュレーションツールであるLCEMツールを用いて、冷却塔ファンインバータ制御の熱源システムにおける最適な運用方法を検討した。LCEMツールによるケーススタディの結果から、「外気湿球温度」と「熱源機の負荷率」の2つの計測値から最適な冷却塔ファン周波数を求める関係式を導出した。また、実証実験によって、従来の制御方法や外気湿球温度から最適な冷却水温度を求める関係式に対して有効性を確認した。

*1 東京大学大学院
*2 エム・ティー・ディー株式会社

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp31-43

空気塊による空調システムの研究
第1報――数値流体シミュレーションによる連続した渦輪の検討

立野岡誠、三國恒文、五十嵐瞳

一般的に、大空間において空調空気を離れた位置に到達させるには、ノズル型吹出口を用いることが多い。しかし、目的地に届く前に、吹出口から噴出した気流は多くが拡散する。一方、渦輪は質量と運動量を輸送する能力が高い。本研究の目的は、渦輪を連続発生させて空気調和に応用することである。本報告では、連続発生させた渦輪を数値流体シミュレーションで解析した結果について報告する。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp45-53

空調設備における流体音予測に関する研究
第1報 ― 分岐管・合流管の流体音実験と数値解析

土志田卓、三上秀人、三國恒文、御法川学*1

空調設備において流体音の低減は重要な課題である。流体音は、空調用のファンやポンプのほかにも管路や弁など様々な部材で発生し、管路内部で減衰することがないため騒音レベルが小さくても遠方まで伝搬して問題となることが多い。本報では、分岐管・合流管などのダクト部材から発生する流体音の定量的な予測手法を確立することを目指し、数値流体解析(Computational Fluid Dynamics:CFD)と音響解析を連携させた計算手法の予測精度を評価した。はじめに、ファンのノイズや脈動が実験に影響しないよう圧力差でダクトに通風する装置を無響室内に構築し、ダクト内の風速分布および剥離流れから発生する音圧レベルを実験により取得した。続いて、実験で取得した分岐管・合流管の風速分布と、乱流モデルにRANSおよびLESを用いたCFD解析結果とを比較し、流れ場の計算条件を確立した。次に、CFDによる非定常解析結果から音響解析を実施し、観測点における解析結果を実験と比較した。その結果、本手法により、管路系の特徴である共鳴現象を再現でき、騒音レベルおよび周波数特性の定量的な予測が可能であることを明らかにした。

*1 法政大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp55-63

角型のアネモスタット型吹出し口を対象としたCFD パーツのモデリング手法に関する研究
第1報 水平吹出し時におけるMomentum 法の適用と検証

深田賢、酒井孝司*1

建築設備分野での室内におけるCFD解析では,気流分布の予測精度に影響を与える重要な要因として吹出し気流の再現性が挙げられる。しかし,室内に設置される吹出し口の多くは複雑な形状を有しており,CFD解析モデルで詳細な形状を再現することは,計算時間や作業量を考慮すると実務の設計段階では困難である。そこで,本研究では気流性状が複雑となる角型のアネモスタット型吹出し口を対象として気流性状を把握し,汎用的に利用可能なCFDパーツの作成方法について検討する。本論文では,実験により吹出し口近傍の気流分布を可視化することで把握したうえで,Momentum法を構造格子系CFD解析に適用する際における境界条件の設定方法を検討し,実験結果と比較した。その結果,本手法が設計や施工検討で重要となる拡散半径や室内の温度分布を実務上十分な精度で計算可能なことを確認した。

*1 明治大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp65-72

Validation of Unsteady CFD considering Thermal Load Fluctuation in Office Room

Ken FUKADA、Masato MIYATA*1

In the design of air-conditioning equipment, by predicting the annual air-conditioning energy and heat load with high accuracy and by comparing multiple designed air-conditioning systems, it is possible to select optimal equipment and reduce capital investment. However, occasionally, it is difficult to predict energy consumption by means of energy simulation (ES) assuming that the indoor thermal environment is uniform, because of various reasons such as the influence of the uneven distribution of the pieces of equipment that act as heat loads, and mixing loss due to the air-conditioning system. In addition, when evaluating an air-conditioning system considering human comfort in a room, it is necessary to calculate a comfort index such as the predicted mean vote (PMV). In that case, it is important to predict the distribution of the thermal environment such as the bias in wall surface temperature. Therefore, attempts have been made to combine computational fluid dynamics (CFD) with ES for predicting the distribution of the thermal environment. However, in a few cases, measurements are made considering thermal load fluctuations in actual outdoor environments, and validation of CFD analysis is performed. Therefore, in this study, in a laboratory simulating an office, considering the effect of actual solar radiation, we measured the performance by changing the air-conditioning system of the perimeter zone and analyzed the behavior of thermal load in the room. Subsequently, by comparing the actual measurement results with the results of unsteady CFD analysis, the prediction accuracy of indoor temperature distribution and air-conditioning heat quantity was validated. As a result, it was clarified that the prediction accuracy of indoor temperature distribution is affected by how the airflow that was directed out of the air conditioner in the perimeter section collides with the window shade.

*1 National Institute for Land and Infrastructure Management

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp73-77

たばこ用脱臭装置と最新センサー技術を用いた省エネルギー喫煙室の開発
(第2報)たばこ用脱臭装置の開発

佐伯寅彦、小林徳和、穴井俊博、湯懐鵬、増田大祐*1、坂本裕*1、中川貴文*2

喫煙室内の浮遊粉じんとガス状の化学物質を低減する一般的な対策は換気であるが、換気設備やダクトルートの制約により十分な換気量を確保できない喫煙室が多い。また、電気集じん機を用いて環境改善を図る対策法は、ガス状の化学物質に対する効果が期待できないため、喫煙室内の臭気が問題になることがある。筆者らは、低級アルデヒドの吸着能を高めた特殊活性炭を用い、たばこ用脱臭装置を開発した。本報では、開発したたばこ用脱臭装置を三菱地所株式会社本社の喫煙室に設置し、臭気、ガス状の化学物質および浮遊粉じんの除去性能について測定した。結果、たばこ用脱臭装置のシングルパス除去率は臭気について92%以上、アセトアルデヒドについて85%以上、ホルムアルデヒドについて85%以上、TVOCについて97%以上、ニコチンについて99%以上、浮遊粉じんについて99.9%以上であった。

*1 丸の内支社
*2 株式会社三菱地所設計

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp79-84

たばこ用脱臭装置と最新センサー技術を用いた省エネルギー喫煙室の開発
(第3報)喫煙室内の空気環境評価

小林徳和、佐伯寅彦、穴井俊博、湯懐鵬、増田大祐*1、坂本裕*1、中川貴文*2

三次喫煙の影響を減らすためには、喫煙室の設置による分煙だけでなく喫煙室内の化学物質濃度を低減する必要がある。そこで筆者らは、喫煙室内の環境改善を目的に、効率的な置換換気と低級アルデヒドの吸着能を高めたたばこ用脱臭装置で構成する“省エネルギー喫煙室システム”を開発した。
このシステムを採用した喫煙室でたばこを燃焼させて室内環境の評価を行った結果、たばこ煙の指標として用いられる浮遊粉じんや一酸化炭素の値は建築物衛生法の居室に要求される値以下であり、良好な環境を実現できた。また、たばこ用脱臭装置で処理した空気を外気の代替として循環しても、臭気、浮遊粉じんなどの室内環境に影響がないことを確認した。

*1 丸の内支社
*2 株式会社三菱地所設計

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp85-90

建築用ステンレス配管の溶接接合部近傍に生じる腐食原因に関する一考察

有坂宏毅、松川安樹

建築用ステンレス配管は、その優れた防食性・施工性から、給水・給湯・蒸気還水など多くの配管系に使用される。しかし、溶接部近傍が腐食して、短い期間で漏水に至る事例がたびたび発生している。原因として、溶接熱影響による鋭敏化や微生物の関与が挙げられるが、不明な点が多い。本研究では、SUS304製給湯用ステンレス配管の溶接部近傍に生じた腐食事例について詳細な調査を行い、腐食原因の考察をした。調査の結果、溶接接合部の金属組織とステンレス鋼中に含まれる微量元素がステンレスの耐食性を低下させ、腐食が生じることが示唆された。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol26,2019,pp91-96

ZEBを目指した中規模事務所ビルの計画と検証
変風量コアンダ空調システムの暖房時における室内環境と気流性状の把握

五十嵐瞳、深田、賢、秋元孝之*1、大畑翔平*1、榊原光*1、木村円香*1、羽鳥大輔*2、中村駿介*2、平須賀信洋*2、坂本裕*3

ZEBを目指した中規模事務所ビル向けの変風量コアンダ空調システムについて、実大実験室を用いて温熱環境および気流性状の実験を行った。冷房運転においては、居住域を良好な温熱環境にできること、局所的なドラフトが生じることを示した。また、気流性状の簡易測定方法を考案し、冷房運転については局所的なドラフトを抑制し、暖房運転については良好な温熱環境を形成するための検討を行った。以上より、吹出温度差を6K以下とし、吸込口を吹出口下方の壁面に設けることが有効であることを示した。

*1 芝浦工業大学
*2 株式会社三菱地所設計
*3 丸の内支社

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