特許・論文

中央研究所報2021年 Vol.28

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp1-8

水道水環境における炭素鋼の腐食(Ⅰ)
新しい水質指標を用いた腐食性評価方法

中村勇二、松川安樹、岡崎慎司*1、朝倉祝治*1*2

素鋼に対する水道水の腐食性を評価する新しい方法を見いだした。日本各地49箇所の水道水で腐食試験を行い、水道水の成分と平均腐食速度および最大局部腐食速度の相関関係を調べた。その結果、両方の腐食速度ともに、溶性シリカ(SiO2)とSO42−濃度に比較的強い相関があった。一方で、従来の知見に反し、Cl−とHCO3−濃度は平均腐食速度に相関がなかった。さらに解析を進め、[SO42−]/[SiO2]と平均腐食速度および最大局部腐食速度の関係を調べたところ、強い相関関係があることを見いだした。[SO42−]/[SiO2]をSS比と定義し、Langelier指数、Ryzner指数、Larson指数よりも優れた腐食評価指標であることを示した。

*1 横浜国立大学
*2 株式会社ベンチャー・アカデミア

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp11-15

医療施設などにおけるホルムアルデヒド対策技術の開発
(その4)ホルムアルデヒド乾式除去システムの開発

小林徳和、佐伯寅彦、穴井俊博、湯懐鵬

医療施設では、病理検査室や解剖室においてホルマリン液による固定処理後、包埋、切り出しなどの作業を行うため、多量のホルムアルデヒドガスが発生する。筆者らは、気流制御技術と湿式ホルムアルデヒド除去装置を組み合わせたシステムを開発し、ホルムアルデヒドを扱う医療施設の作業環境の改善に取り組んできた。しかし、湿式ホルムアルデヒド除去装置は、除去性能が優れるものの装置が大型であり、また、処理後空気が加湿されるなどの課題もあった。そのため、新たに高い除去性能を持つホルムアルデヒド用吸着剤を開発した。この吸着剤は、上流濃度0.1ppm、SV値50,000h-1において、約600hにわたり90%以上のシングルパス除去率を維持し、従来用いられているホルムアルデヒド用添着活性炭よりも除去性能が優れることを確認した。本吸着剤は、高いホルムアルデヒド除去性能を示すことから、局所排気処理、循環処理などのほかに、パッシブ吸着剤としての応用も可能である。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp17-22

無薬注型防食システムによる既設地域冷暖房施設の腐食対策
防食システムの概要と導入に向けた検証試験の結果

山田育弘、津波古敦信、松川安樹、安保奈々子*1、嵐田修啓*1、宮﨑久史*1、丸尾敬仁*2、根本潤一*2

無薬注型防食システム(以下、防食システムという)は、配管施工時に導入することを想定して開発したシステムであり、配管施工の段階で“腐食の起点”を作らないことで局部腐食の発生を抑制する点が大きな特長である。また、薬品を使用しないことから環境負荷が小さく、腐食対策に薬品を使用できないケースでも対応可能である。そのような中、運用中の既設地域冷暖房施設へ適用範囲を拡大すべく、防食システムの効果とリスクについて検証試験を行った。その結果、既設地域冷暖房施設に防食システムを導入することで、炭素鋼の腐食が抑制されることを確認し、考えられるリスクについても問題がないことを確認した。

*1 都市環境事業部
*2 株式会社東武エネルギーマネジメント

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp23-28

全外気方式ドライルーム用除湿機における省エネルギーシステムの研究

長澤雅俊、三上秀人、佐原亮

全外気方式のドライルームで低露点温度(-50℃DP程度)の給気が要求される場合に、直列二段に除湿ローターが設置された除湿機が採用されることがある。前段の除湿ローターは、コストやスペースの制限から除湿セクションと再生セクションをもつ二分割除湿ローターであることが多い。また、前段除湿ローターへの潜熱負荷は大きいため、再生エネルギーが非常に大きくなる。本報では、直列二段に除湿ローターが設置された除湿機をもつ全外気方式のドライルームのために開発された省エネルギーシステムの概要について述べた後に、省エネルギー効果について述べる。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp29-34

設備用機器の診断方法に関する研究
第一報 時系列解析を応用した診断方法の検討

白木秀児、津波古敦信

振動法による設備診断は、設備用機器の維持管理の方法として広く採用されている。多くの場合、個別の機器ごとに手作業で振動計測する巡回型の診断が行われている。近年、設備の保守に携わる作業者の高齢化と減少が進み、従来どおりの設備の維持管理は困難な状況になりつつある。そこで本研究では、設備の維持管理の省力化を目的として、簡易でありながら、精度を確保した診断を早期に行え、さらに、これまでの簡易診断方法では検知が難しかった低回転で運転する機器に対応できる診断方法について検討した。その結果、時系列データをもとにベクトル解析する方法を応用した診断方法を用いることで、送風機の異常を従来の簡易診断方法に比べて30%以上早期に検知できること、また、低回転で運転する機器に対しても診断が可能であることを確認した。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp35-40

地域冷暖房プラントにおけるシステム効率向上の取組み
(第1報)開放式冷却塔最適運転の効果と密閉式冷却加熱塔最適運転の検討

矢島和樹、福井雅英、宮﨑久史*1、坂本裕*1、嵐田修啓*1、安保奈々子*1、丸尾敬仁*2、根本潤一*2

地域冷暖房プラントにおけるシステム効率向上の取組みの1つとして、冷却水温度を最適に制御する一次式の精度向上を行った。精度向上の前後の実測データを分析した結果、冷熱源システムのシステムCOP(Coefficient of Performance)が約2%向上した。また、冷却加熱塔のブライン温度の最適制御方法を検討し、外気乾球温度による一次式の制御方法を考案した。冷却加熱塔の場合は冷却塔と異なり着霜の問題が発生するが、外気露点温度による制約条件を設けることでその問題を解決した。考案したブライン温度の最適制御を導入することによって消費電力量が7.6%削減されると試算された。

*1 都市環境事業部
*2 株式会社東武エネルギーマネジメント

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp41-46

大規模オフィスでの中温冷水を利用した高効率熱源・空調システムに関する研究
第18報 13℃系統の熱源改修後における運用実績評価

福井雅英、大森一郎*1、浅利直記*1、嶋田泰平*2、佐々木真人*2、宮﨑久史*3、桐生拓馬*3、矢島和樹

大規模テナントオフィスビルは、省エネルギーなど社会ニーズへの先導的な取り組みが不可欠である。本研究では、2014年6月に開業したTビルを対象に、従来の室内環境を維持しながら、熱源・空調エネルギーを削減する運転手法を追求している。本報では、Tビルにおける13℃冷水系統の熱源システム改修工事の概要について述べ、改修後の運用実績を示した。運用実績の評価から、改修後の13℃冷水系統のシステムCOPが改修前と比較して向上したことを確認した。

*1 森ビル株式会社
*2 株式会社日本設計
*3 都市環境事業部

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp47-52

ZEBを目指した中規模事務所ビルの計画と検証
シミュレーションによる梁周りの気流性状の評価

五十嵐瞳、深田賢、秋元孝之*1、岡本直己*1、羽鳥大輔*2、平須賀信洋*2、加藤駿*2、坂本裕*3

変風量コアンダ空調システムは、コアンダ効果を生かした空調方式と室内制御としての変風量方式を両立させるために開発した技術である。コアンダ効果を生かした空調方式は、天井に設置される梁などの物体の影響を受けるため、変風量コアンダ空調システムを一般ビルに導入するには、天井面に沿って流れる空調空気が物体を乗り越えて、天井に再付着する工夫が必要となる。そこで本報では、吹出気流の主方向と直交する向きに設置される梁に斜材をつける対策手法を考案し、可視化実験とCFD解析(数値流体シミュレーション)により、有効性を検証した。結果、緩勾配の斜材により、梁での気流の剥離を軽減できることがわかった。また実験で得られたデータを基にしたシミュレーションモデルを作成し、実験との精度検証により、その有用性を確認した。

*1 芝浦工業大学
*2 株式会社三菱地所設計
*3 都市環境事業部

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol28,2021,pp53-60

アニオン交換処理水を用いた防食フラッシング工法

松川安樹

建築設備配管の長寿命化を図るために、腐食対策は重要な課題である。近年、異種金属接触腐食や潰食など、原因や対策が明確な腐食事象は減少傾向にある。しかしながら、亜鉛めっき鋼管や熱交換器銅チューブに発生する局所的な腐食については、原因と対策が明らかにされていない。このため、局部腐食による障害は現在もたびたび発生している。本稿では、アニオン交換処理水を水張り・フラッシングに用いることで、薬品を使用せずに炭素鋼鋼管・亜鉛めっき鋼管・銅チューブに発生する腐食(特に局部腐食)を抑制する方法について紹介する。

イノベーションハブ研究報告トップ

ページトップへ