特許・論文

中央研究所報2022年 Vol.29

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp1-9

水道水環境における炭素鋼の腐食(Ⅱ)
―腐食生成物による表面被覆率と腐食電位の関係―

中村勇二、松川安樹、岡崎慎司*1、朝倉祝治*1*2

日本国内66地域で採取した水道水を研究対象として、炭素鋼の腐食試験を行った。炭素鋼表面に腐食生成物が堆積していく過程に着目し、解析した。
表面被覆率(θ)を、全表面積(A)に対する腐食生成物による被覆面積(Arust)の割合(θ=Arust /A)と定義した。それぞれの水道水中において、θおよび腐食電位Ecorrの時間変化を追跡し、知見を得た。

*1 横浜国立大学
*2 株式会社ベンチャー・アカデミア

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp11-16

ZEB を目指した中規模事務所ビルの計画と検証
(第 22 報)ダイナミックレンジ放射空調システムの検証および省エネルギー化の検討

近都州彦、秋元孝之*1、坂本裕*2、羽鳥大輔*3、平須賀信洋*3、加藤駿*3

水式放射空調は、高い送水温度の運用により熱源機器の効率を向上できること、熱搬送効率が高いことなどから省エネルギー性の高い空調方式である。しかし、外気冷房など自然エネルギーを利用する場合には制約も多く、その効果は限定的である。そこで、従来の水式放射空調の課題を解決し、さらなる省エネルギー化を実現するため、ダイナミックレンジ放射空調システムを開発した。
本報では、実建物にダイナミックレンジ放射空調システムを導入して運用した結果をもとに性能検証を実施した。その結果、VWV―VT制御(可変流量-可変温度制御)が想定どおりに行われていること、フリークーリングの利用期間の拡大により、対流空調の外気冷房と比較して期間中約20 %以上自然エネルギーを有効に活用していることを確認した。また、ポンプ動力が計画時の想定よりも大きいため、VWV―VT制御の運用条件の変更による省エネルギー効果を検討した。

*1 芝浦工業大学
*2 都市環境事業部
*3 三菱地所設計株式会社

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp17-22

ZEB を目指した中規模事務所ビルの計画と検証
(第 22 報)ダイナミックレンジ放射空調システムの検証および省エネルギー化の検討

中村勇二、松川安樹、坂本裕*1、近都州彦、羽鳥大輔*2、平須賀信洋*2、加藤駿*2 、秋元孝之*3

酸素透過性を有する樹脂系材料が使用された配管システムの腐食対策として、補給水の水質改善および脱酸素装置による酸素低減処理を行った。水質改善には、イオン交換樹脂により、水道水中に含まれる腐食促進イオン(SO42−、Cl−)を腐食抑制イオン(HCO3−)に置換するアニオン交換処理法を採用した。循環水の溶存酸素濃度と金属に対する腐食性をそれぞれのセンサを用いて監視した。その結果、空調運転により、循環水中の溶存酸素が増加し、それに追従して腐食性が高くなることが確かめられた。よって、脱酸素装置による循環水中の溶存酸素の除去は、金属に対する腐食性の低下に有効であることが確かめられた。さらに、水質改善を行った補給水の腐食性を実験室レベルで確かめたところ、腐食性がきわめて低い結果を得た。

*1 都市環境事業部
*2 三菱地所設計株式会社
*3 芝浦工業大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp23-27

低速気流を利用した空気感染対策用漏洩防止装置の開発

森本正一、穴井俊博、湯懐鵬、小林徳和

病院では空気感染対策として陰圧室が使われている。陰圧を維持していてもドアを開けると病原体が漏洩することがあるため、対策として前室の設置が推奨されているが、設置率の低さが課題である。そこで、前室の代わりに0.3 m/s 以下の低速気流で陰圧室からの病原体の漏洩を抑制する技術を考案した。この装置は、吹出し口から吸込み口へ向けて低速の一方向流を形成することで空気の壁を作ることができる。初めに、清浄側の濃度を汚染側の1/10以下に維持できる条件をCFD解析で検討し、装置の気流の幅を0.4 m 、装置間距離を2.0 m とする基本仕様を決定した。次に、装置を製作して性能を確認した。模擬粒子を用いて実験した結果、設計風量±10 %の範囲で、本装置の運転により清浄側の粒子濃度を1/10以下に低減する効果を確認した。以上の結果から、開発した空気感染対策用漏洩防止装置は、十分な漏洩防止効果を得られることが確認できた。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp29-34

熱交換器銅チューブの孔食発生に対するアニオン交換処理による対策と残留炭素の影響

有坂宏毅、山田育弘、松川安樹

熱交換器銅チューブには、水質・残留炭素・流速などの影響で孔食が生じることがある。孔食の発生には、銅チューブ表面に形成される初期皮膜の状態が影響することが報告されているが、皮膜に影響をおよぼす要因は定量的に解明されていない。本報では、水道水中に含まれる腐食を促進させるイオン(塩化物や硫酸イオンなど)をアニオン交換樹脂により炭酸水素イオンに置換する処理(以降、アニオン交換処理)を行い、孔食の抑制効果を電気化学測定により検討した。また、残留炭素や流速が銅チューブの孔食に及ぼす影響を評価した。測定の結果、アニオン交換処理した水道水と残留炭素を低減した銅チューブにおいて、銅の孔食が抑制される傾向を示した。これにより、水道水中の塩化物イオンを低減したことにより銅チューブに形成された皮膜が保持されたこと、残留炭素を低減することで均一な皮膜が形成されたことなどが考えられ、補給水をアニオン交換処理し、残留炭素量の少ない銅チューブを採用することで銅管の孔食を抑制できる可能性が示唆された。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp35-41

空調用冷温水系統に使用した亜鉛めっき鋼管の局部腐食事例と対策

津波古敦信、山田育弘、松川安樹

亜鉛めっき鋼管で発生する腐食において、異種金属接触腐食や全面腐食など原因と対策が明確な事象は減少傾向にある。一方、局部腐食は複数の要因が重複して発生するため、原因の究明と対策が難しく、現在でも腐食トラブルがたびたび発生している。本報では、亜硝酸塩系防錆剤の添加により、空調用冷温水系統に使用した亜鉛めっき鋼管の局部腐食の進行を抑制した事例を紹介する。そして、腐食抑制機構を推察する検証試験の結果、亜硝酸塩系防錆剤の主成分である亜硝酸イオン(NO2−)と配管内部の腐食生成物が反応して生成された保護皮膜が影響していることが示唆された。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp43-49

三次元壁面噴流を利用した空調方式の気流分布再現手法に関する研究
(第 1 報) 気流性状の把握と解析精度検証

深田賢、酒井孝司*1

COVID-19の影響により、換気に関する関心は高まっており、適切に換気を行うための検討手法として、CFD(数値流体力学)の利用が注目されている。CFD解析では、室内の温熱環境だけでなく空気の淀みなども可視化できるが、その際、気流分布の再現性が重要となる。吹出し気流の中には、実務上CFD解析で多く用いられる標準k-εモデルを利用した場合に再現性が著しく低下する現象も存在する。そこで、本研究では、再現が困難とされている三次元壁面噴流を対象として、実験とCFD解析結果の比較を行った。CFD解析では、標準k-εだけではなく、Large Eddy Simulation (以下、LES)による詳細解析の結果と比較することで、再現性低下の要因を検討した。LESでは、実験と同様な壁面方向に広がる気流分布が再現されたが、標準k-εでは、広がらない結果を示した。LESと標準k-εのレイノルズ応力分布を比較することで、壁面水平方向に発生するシアストレスが標準k-εでは約₁/₂と小さいことがわかった。今後は、この不足しているシアストレスを適切かつ容易に追加できる手法を検討する。

*1 明治大学

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp51-56

アルカリ電解水を用いたエアワッシャの酸性ガス除去システムの研究

服部美紀、佐原亮、三上秀人

半導体製造および液晶パネル製造工場のクリーンルームでは、分子状汚染物質(AMCs)が製品の歩留や製造装置に影響を及ぼす。エアワッシャは外気中の水溶性AMCsを水と気液接触させることにより除去する装置である。一般に、エアワッシャ単体ではAMCs除去能力が十分ではないため、外調機にケミカルフィルタの設置が必要となる。本研究では、アルカリ電解水を用いて酸性ガスを除去することで外調機のケミカルフィルタを不要としたシステムを開発し、SO2の除去性能評価を行った。

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp57-62

地域冷暖房プラントにおけるシステム効率向上の取組み
(第 2 報)密閉式冷却加熱塔最適運転の効果検証

矢島和樹、福井雅英、宮﨑久史*1、坂本裕*1、嵐田修啓*2、安保奈々子*1、佐藤祐*3、丸尾敬仁*4、根本潤一*4

ヒーティングタワーヒートポンプシステムを対象として、エネルギーシミュレーションを基にブライン温度とシステム全体の消費電力の関係を求め、外気乾球温度の一次式でブライン温度を制御する手法を考案した。その手法を自動制御として実在のプラントのシステムに導入し、実績データを用いて制御状況の確認とエネルギー削減効果の把握を行った。ヒーティングタワーファンの風量制御を行うことで、3.8 %エネルギーを削減できることがわかった。さらに導入後の実績データを基に一次式の係数を修正することで、7.8 %減と係数修正前に比べ大きなエネルギー削減効果が得られた。

*1 都市環境事業部
*2 首都圏事業部
*3 電気計装事業部
*4 株式会社東武エネルギーマネジメント

新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol29,2022,pp63-68

風量調整ダンパから発生する流体音に関する実験および数値解析

吉永隼人、三國恒文、御法川学*1

空調ダクト系の防音設計の知見を得るため、風量調整ダンパを設置したダクト系における流体音の特性を実験と数値解析により評価した。実験は、風量調整ダンパを直管ダクトに設置し、ダクト端部から放射する流体音の音圧レベルを測定した。羽根の回転方向が異なる平行翼と対向翼の風量調整ダンパについて、羽根角度別の音圧レベルの特性を確認した結果、羽根角度45°の条件において音圧レベルが最も大きくなることを確認した。また羽根表面の微小な形状が流れ場と音場に影響するという推定結果を得た。実験で得られた現象を確認するため、数値解析による検討を行った。流体解析と音響解析を連成した手法を採用した結果、風量調整ダンパで発生する流れ場の渦構造と音響特性を確認でき、数値解析の精度向上に必要と考えられる条件を推定できた。

*1 法政大学

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