重要課題
(マテリアリティ)の決定
重点課題の検討プロセス
これまで、社会の持続的発展のために、新菱冷熱が事業を通じて、取り組む社会課題は何かについて、検討を進めてきました。その中でも力を入れて取り組む重要課題については、新菱冷熱の事業計画である「第14次3ヵ年計画」を軸に、ISO26000および持続可能な開発目標(SDGs)の考え方を取り入れ、経営陣および外部有識者の意見を参考に検討しました。
2020年、重要課題を決定したその検討プロセスを詳しく掲載します。
2017年度 CSR活動とSDGsのターゲットとの関連付け
新菱冷熱では、SDGsの企業行動指針である「SDG Compass SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか-」などを参考に、重要課題の検討を行いました。SDGsへの取り組みの最初のステップとして2017年度は、既に実施しているCSR活動とSDGsのターゲットとの関連付けを行い、既存の取り組みを通じて貢献していく領域を対照表にまとめ、表明しました。
2018年度 SDGsへの理解を深める議論
2年目となる2018年度は、SDGsと事業の統合を目指し、
(1) SDGsへの理解を深める
(2) SDGs視点による新たなビジネス機会に関する議論
の2点について取り組みました。
2019年度 重要課題の整理・選定
① 社会と当社事業の影響度を分析
2019年度はSDGsの169ターゲット・232指標をベースにステークホルダーの評価・意思決定への影響と、新菱冷熱が環境・社会・経済に与える影響の2軸から分析するシートを活用し、重要課題の整理・選定に取り組みました。
ステークホルダーの評価・意思決定への影響
- 主要ガイドラインおよびSRI調査機関(GRI Standards、SASB、MSCI)のセクター別開示要請項目の分析
- 社会からの要請を定量的に分析など
自社の環境・社会・経済に与える影響
- バリューチェーン視点で影響度を分析
- 理念・中期経営計画との関連性を分析
② マテリアリティマップの作成
社会と新菱冷熱にとっての重要度をグラフ(マテリアリティマップ)に整理しました。
③ 社内の議論・有識者ダイアログ(意見交換会)
影響度分析の結果やマテリアリティマップを踏まえて、社内ディスカッションを重ね、新菱冷熱が取り組む重要課題(マテリアリティ)の第1案を作成しました。この重要課題第1案について、検討委員が有識者とのダイアログを行い、客観性の高い考え方を取り入れました。
重要課題 第1案
- 温室効果ガス排出量の削減
- 強靭なインフラの構築
- 働きやすく、社員の力が発揮される職場づくり
有識者とのダイアログ(第1回)
2020年度 重要課題決定に向けた議論
① 重要課題(第2案)の作成
外部有識者ダイアログの意見を踏まえ、さらなる精査を行い、重要課題第2案を作成しました。
重要課題 第2案
- 温室効果ガス排出量の削減
- 強靭なインフラの構築
- より良い品質の提供
- 建設現場の安心・安全
- 誰もが生き生きと働きやすい職場
- 公正・透明な事業活動
② 外部有識者ダイアログ(2回目)
修正した重要課題について再度、外部有識者との意見交換会を行いましたので、その内容についてご紹介します。
SDGsダイアログ
重要課題の妥当性・客観性の検証のため、有識者と2回目の意見交換会を実施
2019年に引き続き、ロイドレジスタージャパン株式会社の代表取締役・冨田秀実様を招いて、重要課題選定のプロセスや、重要課題の妥当性・客観性について4名の取締役(サステナビリティ推進委員会のメンバー)と意見交換会を行いました。冨田様よりいただいたご意見をご紹介します。
ロイドレジスタージャパン株式会社代表取締役 冨田 秀実様
事業会社でのCSRマネジメントの経験を経て、2013年ロイドレジスタークオリティアシュアランス入社、2020年より現職。ISO26000、ISO20400、GRIスタンダードなどの国際的な規格の策定や政府の委員会に多数参画。
重要課題決定プロセスの良い点
重要課題を設定するにあたり、着実に検討プロセスを積み上げている点が非常に良いです。昨年、1回目のダイアログに参加させていただきましたが、御社は、意見を聞くだけ、結果をレポートにするだけで満足していません。取締役にも宿題を出したうえで、再度、今回のような2度目の意見交換会を開くなど、議論を重ねている点が評価できます。
また、重要課題を重み付けしたマテリアリティマップを作る際、SDGsとともに御社の中期計画の実施項目とも照らし合わせている点も非常に良いと思います。一般的に重要課題の議論は抽象論・理想論になる傾向がありますが、御社ではしっかりと自社の事業計画と連動させているところが素晴らしいです。
重要課題決定プロセスの改善すべき点
SDGsを基軸にした整理だけでなく、御社の重点施策を軸に整理してみるのも良いかもしれません。
SDGsは人類・社会が目指すべきマクロな目標であり、企業の課題とは差異があります。そのため、SDGsだけではカバーしきれない課題が出てくる可能性もあります。たとえば「ダイバーシティの推進」といった場合、SDGsでは女性の話しか出てきません。しかし、企業の事業運営では、現地法人において、どれだけその国・地域の人から管理職や幹部を採用するかなども、ダイバーシティの検討項目となります。自社の事業運営の目線で、もう一度見直し整理すると、実際の事業計画との連動性がより高まっていくでしょう。SDGsにとらわれ過ぎないことも大事です。
ただ一方で、SDGsの観点から、中期計画の中で抜け落ちている課題を見出せることもあります。もしそういうものが出てきたら、逆に中期計画の方にも、ぜひ社会的な視点を反映していただきたい。
重要課題(第2案)の良い点
前回、指摘させていただいた、「労働者の人権」や「建設現場の安全の問題」の視点を、第2案に加えたことは、大変良いと思います。御社にとっては当たり前過ぎて、前回は挙げていなかったのかもしれませんが、労働条件や人権の問題は、世間的にも大きな脚光を浴びており、御社にとって大切なお客様である建築会社の皆さんも重要視している概念です。建設エンジニアリングの会社として、客観的なステークホルダーの目線からもとても重要な視点です。もし、現場の安心・安全という視点が抜け落ちてしまうと、社員がこの課題を見たとき、「自分に関係ない」と感じてしまう恐れがあります。必ずしもすべての社員が、すべての課題に関係しているわけではないでしょうが、「自分の職責においては、この課題が重要だ」ということがわかるようなまとめ方を意識することは大事です。
重要課題(第2案)の課題
「御社の技術やビジネス自体が、社会に貢献する」というCSV※の視点があまり表現できていないように感じます。たとえば、空調関係に強い御社なら、感染症に対応した空調技術があると思います。そういう点が大きな貢献事項になってくるはずです。単に「より良い品質の提供」とするだけでなく、「社会的な価値を生み出す」というところまで踏み込んでほしいと思います。
また、第2案の文言を見ると、建設業界にありがちな表現のように感じます。もっと「新菱冷熱らしさ」を出してよいと思います。たとえば、「さわやかな世界をつくる」という、御社の経営ビジョンのニュアンスを入れてはどうでしょう。御社は非上場企業であり、評価者は業界のお客様ですので、業界用語や社内用語がにじみ出ていても問題はなく、思いの丈を表現できます。その自由度こそが、非上場企業の強みといえます。
抽象的な概念では、わかりにくくなる恐れもあるので、もう少し普段着の言葉で表現してみてはどうでしょうか。社員の皆さんになじみのある言葉を使って整理すると親近感がわいて、社内浸透にも効果的です。重要課題を決定するプロセスは、ある程度、形式的に進めていくものですが、課題を決めることはゴールではなく、これから何を始めるかというスタート地点です。「今後、この重要課題をどう活用するか」という視点で、言葉を選んでみてもよいでしょう。
また、SDGsをあまり振りかざし過ぎない方がよいかもしれません。現在、1つの課題について5つぐらいSDGsのロゴを対応させていますが、ちょっと多過ぎるという印象です。新菱冷熱が最終的に目指すのはどこなのかを意識して、着実につながるものを、3つか4つのゴールに結び付けて、明確に見せられればよいと思います。重要なのは数ではないのです。
※ CSV:Creating Shared Value(共通価値の創造)の略。企業による経済的価値の創出が、社会的価値の創造(社会的課題の解決)にも貢献するという考え方。
重要課題の進捗を示す指標について
とくに重要になるのが、「温室効果ガスの排出量の削減」です。パリ協定や1.5℃特別報告書など、国際的・科学的な知見・合意にもとづいた目標に対し、数値を言い切ったり、どう達成するかを明言したりするのは難しいかもしれません。しかし、目指すべきところに向かって技術開発を行い、工夫を重ね、近づいていこうとしている、その姿勢や気持ちを表現できるとよいでしょう。また建設業界においては、現場の安心・安全にかかわる問題が大きな課題だといわれていますので、きちんと管理できていることを示せるよう、今後は目標を設定しておくとよいでしょう。
そして働きやすさについては、社員一人ひとりが「新菱冷熱にいて良かった」と思えるように、将来的に見て目指すべき姿を示せるとよいでしょう。
御社のお客様、そしてサプライヤーや協力会社とも意見交換を行い、新菱冷熱に何を求めるかを率直に聞いてみることも、有効なプロセスかもしれません。たとえば、「CO2を80%削減する」といった目標は、1社だけでは達成できません。電力やガスなどの供給会社や御社自身、そして御社のお客様やサプライヤー、協力会社など、たくさんの力が集まって初めて達成できるものです。いろいろなステークホルダーの方々がいらっしゃると思うので、それぞれが重要視する課題は微妙に異なるかもしれません。意見を交換し合って、いかに目標に向かっていくのかを見出していくことが重要です。
重要課題を見直すタイミングについて
頻繁に変えるものではありませんが、少なくとも3年に1回程度、中期計画と連動させるなどして見直すとよいでしょう。御社では、昨年までに下地を作った重要課題案について、大きく世の中が変わったコロナ禍を経て、新たな視点でレビューを行うことができました。そういう意味で今回は、とてもタイミングが良かったといえます。
有識者とのダイアログ(第2回)
重要課題(マテリアリティ)の決定
さまざまな検討・議論を経て、新菱冷熱は、4つのSDGs重要課題(マテリアリティ)を決定しました。とくに力を入れていく目標は、「7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「8 働きがいも経済成長も」「9 産業と技術革新の基盤をつくろう」「11 住み続けられるまちづくりを」「13 気候変動に具体的な対策を」「16 平和と公正をすべての人に」の6つです。
重要課題は、新菱冷熱が社会に果たす役割の大きい、「脱炭素社会の実現」や「レジリエンスな社会」にかかわることを定めたほか、より良い建設現場の実現や新菱冷熱らしい「さわやか」な環境づくりを目指すことを含めました。
重要課題の解決に向けて、サステナビリティ推進体系に沿って活動を推進していきます。また、今後は決定した内容をもとに、KPI(重要業績評価指標)を検討・決定し、社内の理解浸透および具体的な活動計画の立案に取り組んでいきます。