
都心の立地ながら独自技術の開発により自然エネルギーを最大活用するなど導入環境技術は世界レベルで高く評価されています。
新菱神城ビルの概要
1階
3〜5階
6〜8階
各階


建物概要
新菱神城ビルの特長
ダクトレス空調を全館に採用することで、1フロア分のスペースを確保
従来の放射空調の弱点を克服する“ダイナミックレンジ放射空調システム”を独自開発し、自然エネルギーを最大活用
コアンダ空調の少風量における、到達距離の不足を独自技術で解決しエネルギー消費を削減
新菱神城ビルの特長 1
ゆとりの「+1フロア」
新開発した独自の
ダクトレス空調を全館に採用し、
1フロア分のスペースを確保
3~8階の執務フロアには、特に中間期に従来方式から一層の省エネルギーを可能にした2種類の独自開発ダクトレス空調を採用。
これらも含め、全館ダクトレス空調にしたことで、天井の高さを確保しながら低階高を実現し、「+1」フロアを実現。

新菱神城ビルの特長 2
ダクトレス空調において
独自性の高い
省エネルギー技術の開発
ダイナミックレンジ
放射空調
ダイナミックレンジ放射空調は熱負荷に応じて温度レンジを最適化する可変流量・可変温度差制御や、外気を利用して水を冷却するプレクール冷却塔などの技術を組み合わせ、自然エネルギーを最大限活用する新しい放射空調システムです。
年間冷房運転時間の約70%で自然エネルギーを活用しています。

従来の水式放射
空調システムの課題


熱源と放射パネルの間に熱交換器が必要
放射パネルの樹脂チューブからの酸素透過による配管設備の腐食対策として熱交換器を挿入
→ 一次・二次側とも通水抵抗増
→ 熱源の製造温度にアプローチ分が必要
→ 低効率で定流量循環ポンプが必要
省エネルギー上はデメリットでしかない

外気冷房が十分にできない
コストの問題やスペースの制約から、必要最低限の外気量で計画される。また、放射パネルの結露を抑制するために外気の導入条件も制約される
制御応答性が悪い
制御操作してから実際に室温が変化するまで相当時間がかかる
→ オーバーシュートを繰り返しON-OFF制御に近い状態に
課題を解決する独自技術
プレクール冷却塔
下記の開発制御と組み合わせることで、従来のフリークーリングシステムに比べ自然エネルギー活用期間を大幅に拡大します。

無薬注防食装置
樹脂製チューブを用いた放射パネルは軽量で伝熱性能が高い反面、酸素を透過するため、配管・機器の腐食対策として一般的には熱交換器を設置します。
このシステムでは、新菱冷熱工業独自の無薬注型防食システム「Corro−Guard」と脱酸素装置の併用により熱交レス配管システムを可能としました。熱交換器を設置しないことにより、通水抵抗低減や循環ポンプ不要など省エネルギー性能を向上させています。

還水温度カスケード制御
室温で放射パネルの流量を制御する方法では時間遅れにより不安定な制御になりがちです。 今回開発した還水温度で放熱量を制御する方法はオーバーシュートを抑制し制御応答性を改善させています。

VWV-VT制御
負荷減少時に還水温度設定値情報を基に送水温度を追従上昇させます。部分負荷時は温度差を小さくし高い温度レンジに移行させることでプレクール冷却塔の利用期間拡大、熱源COPの向上、配管からの放熱量低減などシステム全体で省エネルギー性能を向上させます。

変風量
コアンダ空調
変風量コアンダ空調システムは空気が天井を這うように流れるコアンダ効果を利用した空調方式で、天井内のダクトスペースが不要なため階高の縮小が可能なダクトレス空調です。
風の強弱を問わず空調空気や新鮮外気を部屋の奥まで均一に送り届けることが可能な自律式風速一定吹出口「Air-Soarer®」*を組み合わせることで、送風動力の省エネ化を実現しました。
「Air-Soarer®」は、㈱三菱地所設計、新菱冷熱工業㈱、芝浦工業大学、協立エアテック㈱の共同開発品です。

従来のコアンダ
空調システムの課題

コアンダ空調とは、左図のように天井面に向けて吹出した空気が、平滑な天井面に付着して移動する現象(コアンダ効果)を利用し、ダクトレスで空調空気を搬送する空調方式です。
従来のコアンダ空調では、風量を少なくすると到達距離が短くなるため、省エネルギー効果が高い変風量制御との併用が困難で、必ずしも省エネルギー性が高い空調方式とはいえませんでした。
課題を解決する独自技術
Air−Soarer
「Air-Soarer」は変風量コアンダ空調を可能とする風速一定器具です。
大風量時は風圧で開口面積が大きくなり、少風量時はウェイトのモーメントが大きく働き、開口面積が小さくなります。センサーや電気を用いることなく、風量が変化しても常に一定風速で吹出すことで到達距離が維持されます。

変風量化による省エネルギー性
「変風量コアンダ空調システム」は風量低減時の到達距離不足の課題を解決して変風量制御を可能にしたため、従来の定風量ダクト空調と比較し、搬送動力を65%削減することができます。

新菱神城ビルの特長 3
当社イノベーションハブの実大実験室で
開発技術の効果を事前に検証
当社イノベーションハブに新菱神城ビルの1スパン分の実大実験室を建造し、さまざまな検証試験や実験を行い、結果を設計や施工現場にフィードバックすることで、開発技術のアイデアを確かな技術にしました。


実証実験
ダイナミックレンジ
放射空調システム関連
- 開発放射能力制御の安定性試験と制御パラメータの確立
- VWV-VT制御の制御特性検証
- 放射パネル起動時間の検証
- 放射パネル樹脂管からの酸素透過量の測定
変風量コアンダ
空調システム関連
- 風速一定器具 風速プロファイルの測定
- 風速一定器具 ヒステリシスの解消
- 風速一定器具 条件による到達距離差異の検証
- 風速一定器具 アクチュエータによる風速可変効果の検証
- 風速一定器具単体性能試験
- 風速一定器具 圧力損失・騒音測定
- 風速一定器具 最適制気口サイズ、アスペクト比の検討
- 暖房時の温熱環境試験
- 制気口直下の熱だまり解消方法の検討
- 制気口相互気流影響の確認
- 気流拡散性の検証
- 放射を考慮したCFDとの整合性確認
- 快適性に関する被験者実験
- 数値流体解析(CFD)による気流性状の検証
- 被験者実験による吹出手法の検討及び熱的快適性評価
- サーマルマネキン実験による熱的快適性評価
- 天井仕上げ及び天井障害物が気流性状に及ぼす影響
- BOX法・PV法を用いたCFD解析手法の検討
性能検証
ダイナミックレンジ放射空調システム
ダイナミックレンジ放射空調で放射パネルの能力特性から、還水温度制御による安定性やVWV-VT制御の有効性について、実物のパネルを用いて事前に制御特性を把握しました。
開発目的のひとつであった自然エネルギーの活用拡大について、予測の70%に対し実績では68%を計測しました。

変風量コアンダ空調システム
変風量コアンダ空調は天井面のコアンダ効果を有する気流について、モックアップで実大実験による測定値とCFD解析のフィードバックを繰り返し予測精度を向上させ、実建物でも実測を行い気流性状の実態把握に注力しました。
測定・解析条件が多少異なるため温度分布は完全一致しないものの、コアンダ空調において重要な要素である空調気流が天井から剥離する位置は概ね一致する傾向を得ました。

新菱神城ビルの特長 4
脱炭素に向けた挑戦
新たな脱炭素技術の提供
新菱冷熱はお客様へ引き渡した後の建築設備運用に伴う温室効果ガス排出量(スコープ3カテゴリ11)の削減に貢献する技術を提供してきました。社会は脱炭素の実現に向けて大きく動いており、新たな技術が求められています。
新菱神城ビルの建設にあたり、㈱三菱地所設計、芝浦工業大学(秋元孝之教授)と共同で計画段階から脱炭素技術の研究開発に取り組みました。技術的課題や解決方法を検討する中で得たアイデアを具現化するため、CFD解析・実大実験・フィールド試験を行い、新たな技術として確立しました。

ZEB Readyの実現
さまざまな脱炭素技術の導入により、設計段階で一次エネルギー消費量を基準値から54%削減し、ZEB Readyを達成。さらに運用開始初年度の実績では、75%削減を実現しました。
また、竣工後も表計算ソフトと連携した熱源最適制御システムを新たに開発・導入するなど、継続的な省エネルギー化にも取り組んでいます。

新菱神城ビルの特長 5
主な受賞実績
2023 ASHRAE Technology Award 世界最優秀賞
2023 ASHRAE Region 13 Technology Award 第1位
2022 ASHRAE Japan Chapter Technology Award 第1位
第60回 空気調和・衛生工学会賞 技術賞
第10回 カーボンニュートラル賞関東支部
第18回、第20回
環境・設備デザイン賞入賞合計3件

