中央研究所報2009年 Vol.16
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.1-16
化学物質過敏症の診断・治療施設の開発に関する研究
三上秀人
化学物質過敏症は、化学物質の急性曝露あるいは慢性曝露によって引き起こされる健康障害である。この健康障害を診断・治療するには、室内の汚染物質を除去した専門の施設が必要とされている。本研究では、化学物質過敏症の診断・治療施設の開発を目指し、要素技術として活性炭フィルタの開発、治療施設の建築部材の決定を行った。続いてそれらの要素技術を元にモデルルームを建設し、検証実験を行った。最終的には化学物質過敏症の診断・治療施設を建設し、その性能評価を行った。なお、本報は「化学物質過敏症の診断・治療施設の開発に関する研究 (2008年博士論文) 」からの抜粋である。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.17-30
数値流体力学 (CFD) を用いた陰圧病室の飛沫核の解析
森本正一、堀賢*1、崎村雄一*2、伊藤昭*3、平松啓一*1
空気 (飛沫核) 感染の予防には、陰圧病室が不可欠である。しかし陰圧病室のデザインや気流が、室内の飛沫核濃度に及ぼす影響についての動的な検討はほとんど行われていない。本報では、実在の陰圧病室をモデルとして、数値流体力学 (CFD) を用いて飛沫核の挙動と濃度を解析し、陰圧病室の性能を検討した。その結果、排菌患者が入室すると飛沫核濃度は直ちに上昇し、30分後に患者呼気の約1,200倍に希釈した濃度で定常状態となった。患者が退室した後では、飛沫核濃度は60分後に定常状態から約1/1,000倍まで減少した。陰圧病室のドアを閉め切ると室内空気の前室への流出は認められないが、ドアを開放すると室内の空気が前室へ流れ込み飛沫核濃度が急上昇した。また飛沫核の分布に与える吹出口と吸込口の影響について、同じ換気回数で検討したところ、飛沫核の分布は患者の口と吹出口および吸込口との距離に影響されることが明らかとなった。以上より、CFDを用いて飛沫核の挙動を検討することが、最適な陰圧病室の計画に有効であることが分かった。なお、本報は博士課程学位審査の申請に使用し、日本環境感染学会誌 (2009年) に掲載された「数値流体力学的手法を用いた陰圧病室の飛沫核の解析」に加筆修正したものである。
*1 順天堂大学
*2 戸田建設株式会社
*3 株式会社日建設計
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.31-39
水道水中における亜鉛の腐食挙動に及ぼすアニオンの影響
松川安樹、宮下守*1、朝倉祝治*2
本研究は、冷却水など建築設備配管として多用されている亜鉛めっき鋼管の腐食挙動を明らかにするために行った。実験では、40℃の水道水、純水、および各種アニオンを含む水溶液に純亜鉛を浸漬し、腐食速度、腐食電位、および腐食状態から、亜鉛の腐食挙動に対する各種アニオンの影響を評価した。実験の結果は、以下の通り要約される。HCO3−は亜鉛の腐食反応を抑制する。これは、亜鉛表面に生成する腐食生成物 (Zn4CO3(OH)6・H2O) がアノード反応を抑制するためである。一方、SO42−、Cl−、およびNO3−は亜鉛の腐食を加速する。水道水に含まれる各種アニオンの濃度範囲 (<1mmol L−1) における腐食の促進度の順位は、SO42−> Cl−> NO3−の順である。SO42−とCl−が亜鉛の腐食を加速する要因は、表面に生成した保護皮膜の破壊による。NO3−については、その酸化性がカソード反応を促進することによるものと推測する。純水中の亜鉛の腐食速度は、つくば市水中のそれよりも必ずしも小さくない。これは、つくば市水中に含まれる各種塩類により亜鉛表面に保護的な皮膜が形成されることが原因と考える。本報を基に、水道水の腐食性を論じることができる。
*1 株式会社レモン
*2 横浜国立大学
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.41-49
大空間空調におけるファジィモデルを用いたPID制御に関する研究
植田俊克、本多中二*1
多目的に使用される大空間では、使用用途ごとに異なる温度分布を形成するため、多様な使用用途に対応可能な空調制御法としてファジィモデルを用いたPID制御を提案する。提案法は空調条件、使用用途をパラメータとした定常状態での温度分布からファジィモデルを構築し、センサー位置と居住域温度との差を推論しながらPID制御を行うものであり、センサー位置に依存せずに任意の居住域を制御対象とした温度制御が可能である。CFD解析による制御シミュレーションの結果、センサー位置での温度と居住域平均温度に1.5℃の差を生じる場合においても、居住域に対して温度偏差の少ない空調制御が可能であることが示された。
*1 電気通信大学
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.51-60
空間シミュレーションルームにおけるペリメータ空調システムの研究
第3報 ブリーズラインの吹出方向の検討
立野岡誠、山本雅之、鈴木正美、横山真太郎*1
本研究で対象としている天井ブリーズライン方式によるペリメータ空調システムは、インテリジェントビルを中心にその採用が増えつつある。しかし、建築構造や意匠の制約条件によっては、吹出口の設置位置や適正形状が保てない場合がある。本研究の目的は、ペリメータ空調方式としてブリーズライン型吹出口を用いた場合の、長さ・設置本数および吹出方向に関する設計基準を作成することにある。既報では、研究を行うにあたり製作した実験室の概要を述べ、夏期条件でのブリーズラインの長さと本数の適正化のための実験結果について報告した。本報では、夏期条件下でのブリーズラインの吹出方向が室内温熱環境形成へ及ぼす影響を検討した。それに基づき、適正なブリーズラインの吹出方向の指針を提言した。
*1 北海道大学
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.61-66
CFD解析における高速誘引ノズルの近似法に関する研究
第2報 メッシュ依存性に関する検討
東恵介、加治屋亮一*1、酒井孝司*1、植田俊克
数値流体力学 (以下、CFD) を用いて複数の高速誘引ノズル (以下、ノズル) が配置された大空間の気流分布を解析するには、膨大なメッシュ数が必要になる。CFD解析の計算時間はメッシュ数に比例するため、メッシュ数を削減すれば計算時間の短縮が期待できる。既報1) ではノズルの吹出し気流分布を高精度に再現しつつ、メッシュ数および計算時間を削減する近似法を提案した。本報では、近似法を用いたCFD解析結果が高い解析精度を得るメッシュ数やメッシュレイアウト、近似法の設定条件について検討した。その結果、近似法を用いて吹出し口寸法をノズル径D0の2 倍とした場合、高い解析精度が得られ、メッシュ数を約1/6削減できることがわかった。
*1 明治大学
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.67-72
組換えダイズ栽培用閉鎖型植物生産施設の開発
第1報 施設概要とCFDによる検討
澤田和美、馬田博貴、植田俊克、小島洋志、横田昇平
本研究の目的は、医療用原材料となる遺伝子組換えダイズを効率よく生産するシステムの開発であ る。本報では、組換えダイズの成長に適した環境条件を作る閉鎖型植物生産施設の建設計画について 述べ、計画した空調方式で温湿度等の要求条件を満たすことができるかについて、CFDで検討した 結果を報告する。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.73-78
組換えダイズによる有用物質生産システムの研究開発
明期の環境条件がダイズの成長量と収量に及ぼす影響
澤田和美、佐川美佳、小島洋志、横田昇平、元山尚美
本研究の目的は、医療用原材料となる遺伝子組換えダイズを人工環境下で効率よく生産させるシステムの開発である。本報では、人工環境下で非組換えダイズを用い、明期の気温とCO2濃度がダイズの成長に及ぼす影響を調べた。その結果、明期の気温33℃で栄養成長量が増え、CO2濃度を高めることで、子実収量を増加させる傾向があることを確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.79-87
ダイナミック氷蓄熱システムの解氷特性
山田育弘、小川貴弘、田尾道義、木村文夫
本報は、冷却能力25kWと422kWの製氷装置を用いてダイナミック氷蓄熱システムの解氷特性を取得し、蓄熱槽形状 (面積、水深) 、氷充填率 (IPF:Ice Packing Factor) 、解氷投入温度、解氷ノズル流速をパラメータとした解氷取水温度の簡易予測手法 (簡易モデル) を開発した。様々なスケールの蓄熱槽、IPFに対して計算精度を検証し、解氷取水温度の推移を概ね予測できることを確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.89-93
ダイナミック式氷蓄熱システムの氷層抵抗
小川貴弘、山田育弘、田尾道義、木村文夫
大深度水槽 (水位5m以上) を利用して蓄氷運転した場合、IPFの増加にともない水槽内の氷層抵 抗が上昇し高IPFまで蓄氷できないことがわかっている。各IPF・水位における氷層抵抗と槽内通過 流速の関係を明らかにした。また、氷層抵抗から透水係数を算出し理論透水係数との比較をした。各 IPFにおける水槽底部の圧力 (水頭圧力) を推定し、IPF35%まで溜めるには水位条件7 mが限界で あること、理論透水係数と比較しIPF20%以下では値がほぼ一致することを確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.95-99
数値流体シミュレーションによる省エネ提案ツールの紹介
穴井俊博、植田俊克
筆者らは、省エネルギーという社会的なニーズに応えるため、数値流体シミュレーションを利用した省エネ提案ツールを開発した。このツールは、数値流体シミュレーション上で得られる温度分布の情報から、吹出条件の最適値を自動的に探索する。自動探索により得られた吹出条件から搬送動力、年間運転費の予測が可能なため、省エネ性の高い空調システムを検討できる。さらに温度分布を用いることで、室内環境の快適性についても評価できる。食品工場を対象とし、二つの空調システムの温度分布と年間運転費を比較した。その結果、快適性を保ちながら年間運転費で約8%の差が生じることが分かった。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報, Vol.16, 2009 pp.101-110
超音波流量計の計測条件による性能影響評価
山崎洋、山本誠、吉田敏晴
本報では超音波流量計を用いて様々な条件で計測した場合に、各条件 (温度、流量、設置位置等) が計測結果に与える影響について調べた。その結果、温度条件は計測結果に影響を与えず、流量と設置位置の条件が計測結果に影響を与えることを明らかにした。また、エルボ下流側で計測位置によって生ずる計測誤差を補正するための近似式を導いた。