中央研究所報2016年 Vol.23
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp1-7
省エネ改修ビル (Sビル) における運転実績
第11報 エネルギー消費量の実績と改修後3年目における取組み
塚本将朗、井手克則、植田俊克、福井雅英
Sビルは竣工から40年後の2011年に「省エネルギーと快適性の両立」を目指し、改修工事が行われた。改修後3年目における建物全体の年間エネルギー消費量および年間CO2排出量は、改修後2年目に比べ、それぞれ4.9%、5.0%削減された。また、改修後3年目に実施した環境改善の取り組み (フリーアクセスフロア下部への間仕切増設) について、その効果を確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp9-17
STUDY ON MODELING METHOD IN MODULARIZING HVAC ELEMENTS FOR CFD SOFTWARE
Ken FUKADA、Koji SAKAI*1、Hiroki ONO*2
In Japan, Computational Fluid Dynamics (CFD) analysis which is used in the architectural field. is being utilized in each phase, such as business proposals and the design of HVAC systems, in recent years. It is considered that because of this, CFD analysis is now often handled as a design engineer tool, and not an original technique of experts in R&D. However, gaps in analytical accuracy are a concern since many design engineers utilize CFD analysis. The difference tends to appear when setting boundary conditions, such as an anemostat type air diffuser or four-way cassette type outlet, etc., for which some expert knowledge is required. In addition, we examine the specifications of HVAC elements, and prepare necessary data which is also important.
Here, CFD parts are being developed in Japan which have geometry, boundary and field data for each HVAC element. In this paper, we compared measurement results with CFD analysis results using several modeling methods for a four-way cassette type outlet. As a result, we compiled possible phenomena in the case of inappropriate modeling methods. For example, the influence of the Coanda effect was overestimated compared to measurement results when we placed the outlet at a height that was the same as a ceiling and set the diagonal airflow condition. Finally we described a method of modeling CFD parts which is appropriate for business and the design stage even if we carry out CFD analysis using a coarse mesh.
*1 School of Science & Technology, Meiji University
*2 Central Research Institute of Electric Power Industry
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp19-26
大規模オフィスでの中温冷水を利用した高効率熱源・空調システムに関する研究
第5報 熱源最適運転計画の概要
福井雅英、大森一郎*1、浅利直記*1、関輪一弥*1、嶋田泰平*2、佐々木真人*2、宮﨑久史、天野浩二、齋藤静男
大規模テナントオフィスビルは、省エネルギーなど社会ニーズへの先導的な取り組みが不可欠である。本研究では、2014年6月に開業したTビルを対象に、従来の室内環境を維持しながら、熱源・空調エネルギーを削減する運転手法を追及した。
Tビルに導入された中温冷水を利用した熱源・空調システムにおいて、蓄熱槽をクッションタンクとして利用し、インバータターボ冷凍機を一定の出力で運転する考え方に基づき、熱源システムを最高効率で運転する手法を考案した。この運転手法を用いた場合のエネルギー消費量を試算した結果、従来の一般的な運転方法よりも夏期で約6%、中間期で約19%のエネルギー消費量の削減が見込まれることが示された。
*1 森ビル株式会社
*2 株式会社日本設計
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp27-32
熱源・空調システムの最適制御技術の導入に向けた研究
第2報 冷却水入口温度の設定値最適化と実測による効果検証
矢島和樹、植田俊克、前田幸輝、福井雅英、近都州彦
本研究は、建物の熱源・空調システム全体のエネルギー消費量を最小化する「最適制御技術」の確立を目的としている。
本報では、外気湿球温度を基に冷却水入口温度の最適値を決定する制御技術を弊社中央研究所の熱源システムに導入し、従来の冷却水入口温度を一定にする制御技術とエネルギー消費量を比較した。結果、開発した制御技術により、熱源システム全体のエネルギー消費量を3.3%削減できた。また、実証実験とエネルギーシミュレーションのエネルギー消費量を比較した結果、熱源システム全体のエネルギー消費量の低減効果が実測結果と概ね一致することを確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp33-38
ダイナミック式氷蓄熱システムにおける氷核融解熱量の最少化
小川貴弘、田村記秀、山田育弘
ダイナミック式氷蓄熱システムにおいて安定した製氷運転を行うには、氷蓄熱槽から汲み上げる冷水を0.5℃まで加熱して、冷水中に含まれる微小な氷の粒子 (以降、氷核とする) を融解し完全に取り除く必要がある。従来方式の場合、氷核を融解するために必要な加熱量 (以降、氷核融解熱量とする) は、冷却全体熱量の20%の損失となり、システム効率を低下させる最大の要因となっている。氷核融解加熱量を低減できれば、システム効率が向上し、省エネルギー化を実現できる。
本論文では、凍結データの統計と凍結原因となる氷核が発生し、過冷却熱交換器に至るまでの挙動および氷核形状変化の推移を調べ、氷核融解熱量を最少にする運転手法を提示した。その結果、従来の氷核融解方式に対し、熱損失を60%以上削減できることを確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp39-44
デシカント外調システムの開発
第2報 吸着熱交換器ロータシステムの性能評価実験
田尾道義、鈴木正美、近都州彦
近年、事務所建物において、省エネルギー性と居住者の快適性を両立させるという観点から、潜熱顕熱分離空調が注目されている。本研究では、効果的な除湿システムとして外調システムに着目し、低温再生型除湿材を用いたデシカント外調システムの開発を進める。
前報では、デシカント外調システムの基本構想を検討し、除湿材を選定した。また、除湿材を添着させた吸着熱交換器を試作し、除湿・再生性能を測定した結果、除湿材の冷却により吸着速度が増加する可能性が示された。
本報では、メソポーラスシリカのひとつであるTMPS-1.5Aを添着させた吸着熱交換器ロータを試作し、ロータの諸条件を変えた性能評価実験を行い、その結果、次のことがわかった。1) 冷水を通水すると、除湿側では冷却が行われる。2) 再生温度を変化させても絶対湿度差は変わらない。3) 処理風量が小さいほど絶対湿度差は大きい。4) ロータ回転数が大きいほど絶対湿度差が大きく、ある回転数以上では変わらない。5) 除湿性能は吸着熱交換器の空気との接触時間に影響を受ける。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp45-49
ドライルーム省エネ除湿システムの研究
第1報 省エネ除湿システムの概要と性能評価
佐原亮、長澤雅俊、三上秀人
リチウムイオン二次電池などの製造環境では、露点温度が-30℃DP以下の低湿度の環境を確保するドライルームが必要とされている。このドライルームを構築する、除湿機の消費エネルギーは非常に大きく、ランニングコストが高いという問題がある。本研究の目的は、低湿度の空気を少ないエネルギーかつ安定的に供給するシステムを構築することであり、本報では、我々が考案した省エネ除湿システムの制御性および省エネ性を評価した。その結果、本システムは良好な制御性を示し、従来の定格運転時と比較して消費エネルギーを大幅に削減できることが分かった。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp51-56
ドライルーム省エネ除湿システムの研究
第2報 微量水分領域対応型システムの開発
長澤雅俊、三上秀人、佐原亮、逢坂哲彌*1、横島時彦*1
リチウムイオン二次電池などの研究施設では、微量水分領域 (水分濃度1.2ppm以下) の環境が要求されることがある。本報では、微量水分領域の空調機向けに拡張した除湿システムの制御性および省エネ効果について評価した。その結果、概ね良好な制御性を示し、空調機の消費エネルギーを大幅に削減できることが分かった。また、本システムを早稲田大学のスーパードライルームの空調機に導入し、省エネ効果を試算した結果、再生エネルギーを最大で約43%削減できることが分かった。
*1 早稲田大学
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp57-62
医療機関におけるホルムアルデヒド対策技術の開発
岩間裕樹、佐伯寅彦、穴井俊博、湯懐鵬
医療機関において行われる病理検査では、摘出した体組織のホルマリンによる固定や洗浄、切出しなどの作業時に発がん性物質であるホルムアルデヒドが室内に放出される。特定化学物質障害予防規則では、ホルムアルデヒドの発生源に局所排気装置やプッシュプル型換気装置の設置が義務付けられているが、局所排気装置等に接続するダクトや装置が作業の障害となり、またファンの騒音が作業者間のコミュニケーションを阻害することがある。
そこで筆者らは安全性と作業性を考慮したホルムアルデヒド発散抑制気流方式を開発し、気流分布とホルムアルデヒド濃度の低減効果を実験で確認した。その結果、ホルムアルデヒド濃度が管理濃度0.1 ppmの1/10程度に低減できること、また、作業域の風速が快適性を損なわない0.2 m/s程度に制御できることを確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp63-68
レーザ計測点群から配管ダクトの自動認識に関する研究
第1報 角ダクトの認識
脇坂英佑、鳴海晶也*1、金井理*1、伊達宏昭*1
近年、国内の建設市場では、改修工事の割合が増加してきており、レーザスキャナの需要が高まっている。しかし、レーザ計測点群から現況に即した三次元モデルを構築する作業は、手作業のため時間と労力がかかる。そこで、空調設備の大部分を占めている配管ダクトを効率的にモデル化するための支援技術の開発を目的とした。本研究では、マンハッタンワールド仮説を用いて、レーザ計測点群から角ダクトを自動的に認識するアルゴリズムを開発した。その結果、認識率78%、処理時間4分で直管ダクトをモデル化することが可能となった。
*1 北海道大学
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp69-74
3Dレーザースキャナの設備工事への適用
‐設備工事におけるスキャナ計測の有効性と課題について‐
脇坂英佑
建設業界においてBIMに代表される3Dデータの活用が本格化する中、3Dレーザースキャナは、機器の低廉化やソフトウェアの充実などの後押しもあり、実務での本格利用が始まっている。レーザースキャナによる計測方法は、従来の人手による計測と比較して、精度面、安全面、コスト面などで多くの利点がある一方、いくつかの課題もある。本報では、2件の現場においてレーザースキャナを用いた実測を行い、その有効性を確認した。
新菱冷熱工業株式会社中央研究所報,Vol.23,2016 pp75-82
人工光型植物工場におけるダイズ栽培
佐川美佳、麻田鷹司
植物工場における大きな課題は、採算性が低いことや生産可能な植物が限定されていることである。これらを解決するためには、省エネルギー技術の開発が必要であるほか、工場で栽培可能な植物種を増やし、より高付加価値な植物の栽培を可能とすることが重要である。これらの技術開発が、今後の植物工場分野を発展させることになる。本稿では、人工光型植物工場における研究事例として、①遺伝子組換えダイズ栽培技術、②食用ダイズ栽培事例の二つを紹介する。