第10回
田辺新一氏 (早稲田大学創造理工学部建築学科・教授) に聞く
"未来環境制御"

エネルギーをマネジメントする技術・「エネマネ」

— 集中制御するところがポイントですね。

カナダには、既存の空調機に取り付けると、空調機と連動しながらシステム全体を制御する機器を販売している会社があります。ICTの発達で、いずれは簡単に集中制御が可能になるということです。大量にエネルギーを消費するところでは、こうした技術を導入するメリットは大きいですね。
日本は、東日本大震災で原子力発電所が止まってから、エネルギーを輸入に頼っています。いまは原油の価格が下がりましたけど、2013年の速報値では日本から11兆円もお金が外に出ています。11兆円のうちの7〜8割はエネルギーの輸入です。日本のエネルギー消費量の約35%はビルと住宅で使っているエネルギーなんです。工場を加えると、割合はもっと高くなります。ビル・住宅・工場で使用されているエネルギーを何とかして減らさなくてはいけません。
「エネルギー基本計画」の中には、原子力発電の利用と再生可能エネルギーの利用、省エネルギーの3項目に関する計画が書かれていますが、3項目の中でも省エネルギーは非常に重要です。震災前も省エネルギーは大切でしたが、いまはもっと重要性が増しています。今後は、原子力発電所を楽観的に拡大していくことに賛成する人はほとんどいないでしょう。再生可能エネルギーなども積極的に利用していかなくてはいけません。
しかし、再生可能エネルギーはきわめて不安定です。昼間に使いきれないほど大量に発電したら、どこかに貯めておかないといけません。しかし、周波数と電圧が不安定だとグリッドは再生可能エネルギーを受け入れられません。この問題を解決して電気を有効利用するために、日本は相当な投資をしないといけないのです。これがスマートグリッドです。

いままでは、原子力発電所が安定的に電力を供給していたので停電になることはなかった。再生可能エネルギーを有効に利用しても停電せず安定的に電力を供給するためには、スマート化技術が必要になります。
日本の年間発電電力量のうち水力を除くと再生可能エネルギーの占める割合はまだ数%、ドイツでは30%近くになっています。これは欧州の国々の間に電力網が形成されていて、電力を融通しあっているから実現できている値です。島国の日本では、現在のグリットのままで欧州と同じ割合を実現するのはすごく難しい。

そんな日本で再生可能エネルギーの割合を高めるためには、いままでの省エネルギーのように、ビルの空調運転時間を少し短縮する、という方法だけでは充分でなく、再生可能エネルギーの特性に合わせた電力量の調整技術 (デマンド・レスポンス) が必要です。
電力を使う側の要望「いま冷房したい (電気を使いたい) 」と、電力を供給する側の事情「いま使える電力量はこのくらいです」をうまく適合させるとか、余った電力を貯める技術などが必要になってきます。この技術についてはデマンド・レスポンスという言葉で聞かれることがあるかもしれませんが、大きな意味でいえばエネルギー・マネジメントです。僕らは「エネマネ」と呼んでいます。
マネジメントの対象となるひとつめのエネルギーは「電気」です。住宅で考えれば、自動車に搭載している電池に電気を貯めておこうとか、いまは電気代が高いから電気を買わないで、車に貯めてある電気を使おうとか、自宅の屋根の太陽光発電で作った電気は売電価格の高いときに売ろうとか。事情に合わせた電気の管理を可能にする技術と社会システムが必要になってきます。
それから、電気の次に重要なエネルギーは「熱」です。熱のマネジメント技術が必要になります。

ところでいま、早稲田大学では「スマート社会技術融合研究機構」を設立し、次の社会のための研究を進めています。電気分野の林泰弘教授が機構長を務めていて、スマートグリッド、医療、社会学などの先生方が参加する大きな研究組織です。われわれ建築・住宅部門もお手伝いしています。次を感じる面白い取り組みです。
エネルギーの使用量をひとつの建物で考えるのではなく、建物周辺の地域で考える。いま作った再生可能エネルギーを有効活用する方法を地域単位で考えるのです。たとえば、太陽光や太陽熱を利用して電気や熱を作ったけど、昼間は家族が家に不在だからエネルギーが余ってしまう。そのとき、近所の病院では電気も熱も使いたい。だから、住宅から病院にエネルギーを融通する。エネルギーの使い方を地域単位で考えれば、再生可能エネルギーを無駄にしにくい。これからは省エネルギーを考える単位が建物から地域へと変化すると思います。

ほかにも研究機構では、電力を自由化するとどんなことが起こるかについても議論しています。たとえば昔、電話会社が自由化されたとき、電話を使う私たちは安い電話会社を探しましたね。安い会社を探して、ゼロなんとかって番号を押して電話をかけてました。あの時代のような感じになるだろうと予測する識者の方がいます。つまり、2016年から電力自由化が始まると、いまはここの会社の電力を使おう、と自由に選択するようになるのです。その次は、安い電力を自動選択しくれるシステムが出てくるだろうと予測される。ただ、市場に任せることになるので、本当に安くなるかは疑問の部分があります。
そのとき、ただ安い電力を選ぶだけじゃなくて、快適だけど省エネルギーな使い方も考える必要があります。使い方を考えるには、人の行動を観察しなくてはいけません。だから、快適であるか、どの温度まで我慢できるか、そういうことを調べていかなくてはいけないのです。
電気代を高くすれば人は電気を使わなくなるよ、と言う人がいるかもしれませんが、お金のある人は暑い時にエアコンを切りません。快適な方がいいですから。だからこそ、人の行動を含めてエネルギーをマネージメントすることが、空調の次に僕らがやるべき技術開発ですね。

— 快適性や人の生産性は保ちながら、エネルギーの融通、エネルギーの有効利用を実現するわけですね。

それが新しい省エネルギーの形です。建築設備だけでなく、ICTのうまい利用が必要です。だから、電気の先生や機械の先生とも一緒に研究しています。 2020年の東京オリンピックでも、そういう技術が重要になってきます。暑い8月の東京で開催するのですから、効率的に冷やさないといけません。

次世代をつくる学生にとって大切なこと

— 学生への指導・教育で重要視されていることを教えてください。

「発想は自由に、楽しく元気に」といつも話しています。つらいことがあったとしても、楽しくやることが重要です。
「会社に入ったら自己実現したい」とか「自分のやりたいことをやりたい」という学生が結構います。僕は「それは必ずしも正しくない」といつも言っています。「やりたいことをやるなら自分で会社を起こせ」と僕は言います。「バイトしたことあるか?時給はいくらだった?」と聞くと、学生は「900円くらいです」と答える。「そこで働いているときに好きなことができるか?」聞くと、「できませんよ。好きなことできるわけないじゃないですか」という答えが返ってきます。「あなたが入る会社は、たぶん時給5,000円とか1万円とか、アルバイト代よりもっと多くをあなたに払う。それを考えたうえで仕事をしなくてはいけないよね。それであなたは自由気ままに自分の好きなことをやっていいの?」ってたずねると、「そうか。できないですね」と理解してくれます。

好きなことをやるのではなく、自分が楽しいと思える価値を発見して仕事をやっていくぞ、ということが大切だと思っています。「楽しくやっていかないと、3年で辞めることになっちゃうぞ」って学生には話しています。
それから「4年生の卒論で取り組んだ研究テーマを、自分の一生のテーマだと思うのもいいけど、どうせだからいろいろなことに取り組もうよ」と僕は言っています。視野を広げてほしいのです。
研究室では、計算をやっている学生には絶対に実測をさせます。現場で測定すれば、測定の不具合がわかるからです。自分が設計したものを実際に測定して確認してみる。うまくいった例と、うまくいかなかった例、両方の結果を持っておくと強いです。それには、学生時代には、コンピュータでシミュレーションするだけでなく、体を動かして実物を測った方がいい。実際の建物に実測に出かけて、研究開発されたシステムがどう使われているか測定した方がいい。
「経験を積み重ねないとダメだよ」と学生に言っています。実験室だけに籠らない、計算だけしない、ということです。実測した学生は、卒業して企業に入社しても測るようになります。その一方で、大学時代にコンピュータでシミュレーションしただけだと、会社に入っても命令を受けない限り絶対に測らないのです。業務が増えるだけだからと測ろうとしない。大学の研究室の経営的には、スペースと費用がかかる実験・実測に力を入れると大変なところもありますが、これは大切です。

— 計算で得た仮説を実証することは重要ですね。

大切なのです。もし計算だけでいいと思っているのだったら、それは違う。ぜひ学生のうちに体験しておくといいと僕は思いますね。

新しいことに挑戦するスピリッツ

— 田辺先生と当社は、長い間お付き合いいただいておりますが、どんなきっかけで始まったのでしょうか。

私が学生のときからのお付き合いです。早稲田大学と新菱冷熱さんは非常にお付き合いが長くて、学生時代は井上宇市先生のご紹介などで、新菱冷熱さんが施工した建設現場をよく見学させていただきました。ときには社員の方と一緒に測定させてもらったこともあります。

— 昭和50年代ですね。

たいへん懐かしいです。その後、新菱冷熱さんは白金にある北里研究所病院 (現北里大学北里研究所病院) でシックハウス対策技術「超清浄空間」の研究開発を進めていて、化学物質対策技術という新しい分野に取り組まれていましたね。当時、ほかの会社ではほとんどやっていなかったので、新菱冷熱さんの研究室に試作機を見に行ったり、北里研究所病院も見学させていただきました。
その後、われわれがシックハウスの問題で、建材から放散するVOC (揮発性有機化合物) とかホルムアムデヒドを測定するテストチャンバーというのを作っていたころには、それより少し大型のチャンバーを新菱冷熱さんが製作していた。それで、一緒に仕事をしたり、ほかにも病院の空調や感染制御技術、空調の省エネルギー対策などでもお付き合いがある。いま私は建築設備技術者協会の会長をさせていただいているので、協会活動でもお付き合いがあります。振り返れば30年以上になりますね。

— 有意義なお付き合いをさせていただいています。最後に当社に向けたメッセージをいただけますか。

新菱冷熱さんとは長いお付き合いですが、先に話した化学物質対策技術など、新菱冷熱さんの研究テーマは非常に先駆的です。ユニークなものがいっぱいある、新しいことに向かうスピリッツのある会社だと思います。フロンティアのない企業は魅力がなくなります。次世代空調とか、エネルギー・マネジメント技術など、その次を行くものが何かということを、これからも考え続ける企業であってほしいと思います。

— 本日はありがとうございました。

聞き手 中央研究所長

田辺 新一 (たなべ しんいち) 氏

早稲田大学創造理工学部建築学科教授。1958年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
デンマーク工科大学暖房空調研究所、お茶の水女子大学家政学部専任講師、カリフォルニア大学バークレー校環境計画研究所、早稲田大学理工学部建築学科教授、デンマーク工科大学客員教授等を経て現職。工学博士。一般社団法人建築設備技術者協会会長。
著書に『近未来住宅の技術がわかる本』『21世紀型住宅のすがた』ほか。

スペシャルコンテンツTOPへ

ページトップへ