第3回
江崎浩氏 (東京大学大学院教授) に聞く
"電力危機に向けた提言"

識者の方々が語るさまざまな提言を、スペシャルコンテンツとして発信します。
第3回は東大グリーンICTプロジェクト (GUTP) のリーダー、江崎浩・東京大学大学院情報理工学系研究科教授に"電力危機に向けた提言"について伺いました。

世界最高水準の社会インフラはかならず構築できる

— 昨年は私どもの本社でご講演いただいたり、また当社もGUTPに参加させていただいたり、とお世話になっております。インターネットの草分けであると同時に早くから省エネ推進に取り組まれて、今回の震災を受けて東京大学における緊急の「電力危機対策」もネットに公開されていますが、本日は震災後のこれからの状況に対して、設備業界がどう取り組むべきかをお聞かせください。

提案したいのは「世界最高水準の社会インフラを構築しましょう」というビジョンなんです。「失われた10年」以降、日本のインフラは少し古くなってしまいました。だから今回の震災を経て、節電はするけど経済を減速させない、そしてさらに発展を持続するような社会インフラ改革を3年から5年のうちに実現させましょう、ということですね。

これは強調されるべきだと思うんですが、マグニチュード9という大地震でも仙台のデータセンターやマンション、オフィスなどの躯体は壊れなかったという事実があります。つまり電気などの社会的インフラは脆弱だったけれども、外回りのインフラは世界最高水準にあるわけです。次は中身をどうやって世界最高水準にしていくかを建築設備業界は問われています。

何しろ節電しながらこれまでと同じレベルの活動を維持しなくてはいけません。さらにGDPの増加を考えるとさらにエネルギー効率を上げないと日本は立ち行かないわけです。何としても実現しなくてはなりませんし、それを実現することで、日本の都市がさらに高い次元での世界最高レベルになることができるチャンスでもあると考えています。それは、実現可能なのです。

というのは、空調設備などを含む建築設備の世界は25〜30年前の情報通信の世界と同じような状況だからです。いまは設備機器の仕様が異なっているために、各々の機器は単独で動いていて、だから全体でみると非効率でコストがかかっている。インターネットが普及する前の情報通信世界と同じです。でも情報通信は、インターネット技術で仕様の異なる機器をつないで、非常に高効率な仕組みに成長した。そこで、このインターネットの仕組みを設備の世界にうまく使って省エネするというシナリオです。

設備業界には、個々に強い技術があるんですよ。ただ、強い技術どうしが結合する意志がなかったわけですよね。でも結合すればもっと強くなる。そのためには、強いものどうしが結合するための技術が必要になる。結合するということは垣根がなくなりますから、これがオープン化です。 例えば、オープン化といえば、アジア開発銀行では設備は一度に大規模な更新をするのでなく毎年少しずつ変えるようにしているそうです。ということは常に新しいものを入れるようにするための設備設計をあらかじめつくっておくことになります。こういうオープンな更新方法は、インターネットの世界に近いものがあります。インターネットはいつでも新しい機器をつなげることができますよね。

まず東大でオープン化を推進

— 各社のテリトリーを守ることが必要な面もありますが、しかしそこを打ち破れば、オープンな海原に出られるわけですね。夢があります。

現実に東大グリーンICTプロジェクト (GUTP) がいい例です。GUTPは、ITを利用した省エネのモデルを東大で提供しようというプロジェクトです。

そこで利用している技術はLED照明も空調も、それをコントロールする技術も含め、いずれもすでにあったものなのです。しかし、優秀な技術があっても統合されていなかったのを、GUTPでは国際標準通信規格のIEEE1888を使って統合しています。このIEEE1888は我々が、中国のチームと共同で提案して2011年2月3日に国際技術標準として正式に承認されたものです。
GUTPが触媒の役目を果たしてイノベーションを起こそうとしているわけです。これこそ企業の枠を超えられる大学の役目です。このプロジェクトはリーマン・ショックの最中にスタートして、民間企業資金で運営しています。参加している民間企業の方々はみな真剣で、いろんな会社同士がオープン化されて全部つながっています。

またGUTPで得たデータは、すべて「見える化」して社会に公開しています。IEEE1888規格を使ってオープン化することも、CO2削減に関しても、東大で実例を示しているのです。それと同時に参加企業の方々は自分たちのビジネスモデルに乗せていこうとしています。そうして、参加するすべての企業が共有する新しい形のオープンなインフラを3年から5年で作っていこうというのがGUTPの主旨です。この仕組みがインターネットに似ていますね。

— すでにインターネットで実例が示されているということですね。

今回の震災が教えてくれたこともあります。たとえば社員寮を作っていた会社が、震災の後は寮についての基本構想が変わったといいます。まず電気は止まるものだと想定しなくてはならなくなったし、いざというときの代替機能は必要だし、地下に電気施設を置くのは危ない。重要なインフラになると地域コミュニティへの責任もある。そして情報インフラがきわめて重要だ、ということがわかったというのです。

こうした考え方の変化が日本ではこれから起こってきます。それに対応するのはダイバーシティ (多様性) です。多様なものを取り込んでしまう対応力は、まさにインターネットそのものと同じ構造といえます。

— 電気を使ったりガスを使ったり、いろいろなことを想定して対応できるプランにするにはコストがかかりますが……。

それは技術が解決すべきです。実はこの工学部2号館のビルも、空調の半分は電気で半分はガス空調で、電気が使えない場合を考えています。大学の場合はコストに加えて持続性が重要だからですが、コストの問題は、技術が進んで高い効率になれば解決します。たとえばCO2削減の問題も、ガスタービンの効率を上げれば解決可能です。節電もできてCO2排出規制もクリアーできるような世界最高水準の技術を開発しなくてはいけません。それができなければ停電して産業活動ができなくなってしまうわけです。

次は、設備業界のイノベーションについて、です。

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