第3回
江崎浩氏 (東京大学大学院教授) に聞く
"電力危機に向けた提言"

最先端技術をビジネスモデルとして動かす

— 江崎先生がインターネットとかかわられたきっかけをお話しください。

もともとは九州大学で生体磁気とか、いわゆるバイオエンジニアリングのようなことに携わっていまして、情報通信の世界とは関係がありませんでした。(株) 東芝へ入ってから情報通信にかかわるようになり、入社3年目にニュージャージー州のベルコア社に派遣されて高速インターネットの共同研究に携わったのが大きな転機でした。

共同研究のパートナーが大変に凄いメンバーで、コンピュータネットワーク分野ではトップのベル研、マサチューセッツ工科大 (MIT) 、ペンシルバニア大、IBMのトーマスワトソン研究所などからメンバーが集まっていて、プログラム・マネジャーが「インターネットの父」といわれるロバート・カーン博士でした。

— インターネットに出会ったときは、インターネットの将来像についてどのように思って取り組まれたのでしょうか。

まだインターネットの黎明期でしたから、こんなに発展するとはまったく想像もしていませんでしたが、とにかく面白かったですよ。社会のために、という責任も感じていました。どんな環境だったかというと、ルームメイトがIPv6を作ったPaul Francis博士だったりしたんです。彼らは、もうその頃にインターネットの端末からMITにログインしながら、電話で秘書とやりとりする、そんな仕事をしていました。いまの風景と同じことをすでに当時やっていたんですが、それを真横で見ていたわけです。日本に帰って東芝で高速インターネットのアーキテクチャ研究を始めて、日本のインターネットの草分けの村井純さんと出会ったり、米国コロンビア大学に客員研究員として行ったりしてインターネットと深く関わりました。そういう中で、国際標準化のためにいろいろな人を巻き込んだり、なだめすかしたりということもやりましたし、他企業とのジョイントで関連商品開発を推進したりマーケティングをやったり、単に技術だけではない事業化の全般に携わってきたのです。

— そういうご経験があるので、江崎先生はプロジェクトのために多くの人や企業を束ねることができるんですね。

先端技術はもちろん重要ですが、それだけではなくビジネスモデルとして動くことが大切だからです。1998年に東大に移る頃からIPv6の普及に力を入れるようになって、そういうことが特に必要とされました。

通信仕様をオープン化して収益性を高める

ここでIPv6について説明しておきましょう。簡単にいうとインターネットの電話番号みたいなものです。これまで使われてきたIPv4と呼ばれる電話番号が全部で40億ほどあったんですが、世界人口が60億〜70億ですから、いずれ足りなくなることはわかっていました。それが (2011年2月3日) 、グローバルの在庫が枯渇して、あとは世界各国に売れ残りの各店在庫だけしか残っていないという状況にあるんです(アジアと日本の在庫は2011年4月15日に枯渇しました)。

そういう状況なので今では、IPv4よりもっと数の多いIPv6が普及し始めていますが、当初はIPv6をもっと使ってもらうためにインターネット分野以外のところに広める努力が必要でした。たとえば建築設備などの、いままで関係なかった分野を切り開こうとしたわけです。そうすると企業の側は商売がありますから同じビルの中で系列業者間のバトルがあったりして、それを協力してもらいながらビジネス・ベースに乗せていかなくてはいけません。そんなことをずっと、走りながらやってきたんですね。

— その電話番号を、設備機器はものすごい数を使っています。

この工学部2号館のビルで2000件です。中にいる人間が200人ですから、ざっと人口の10倍くらい必要ですね。さらに問題なのは、前にも触れたように同じビルの中で設備機器同士が話をするのに電話番号の変換が必要だったりすることです。

いまは、設備機器を導入する工事代が1億円だとするとこの変換のために7000万円もかかっています。つまり、この変換の部分がなければ3000万円でいいということになります。新しく作るときはそのように共通言語仕様にすればいいですし、たとえていえばフランス語と日本語を使っていたのを全部英語にして効率化することで節約していくわけです。そういうオープンシステムによる協調動作を積み上げていくと25%以上の効率化が可能になります。

— それは今回の復興のプロセスでも重要ですね。

「世界一」「世界最高」を目指すからがんばれる

設備業界の企業にすれば、これまでは機器どうしの変換工事で大きかった売上が減ることになります。しかし、オープンシステムになることで新しいビジネスの世界も開けます。また、そのほうが社会が発展することも忘れてはいけません。

たとえば日本の代表的企業でも独自技術開発のために多くの技術者を抱えて多大なコストをかけていますが、オープンな技術の後追いをしているようでは非効率です。アップルはオープンシステムで利益を出しています。つまり、オープンシステムの中に新しい技術をどう取り込むのかという方向でビジネスの展開に勢いが付くのです。

GUTPでは社会に対してそのリード役を務めていこうとしているんですが、その目標がはじめに言ったとおり「世界最高水準の社会インフラ」なんです。意図的にそう言っています。やはり、ただの「エコ」では目指すものとしては弱い。そうではなくて「世界一」とか「世界最高」ということが必要なのです。誇りを持って皆が頑張れるんですね。

— 本日はどうもありがとうございました。

聞き手 中央研究所長

江崎 浩 (えさき ひろし) 氏

東京大学大学院情報理工学系研究科教授。1963年生まれ。
九州大学卒。東京大学大学院工学研究科修了。工学博士。 インターネットの産官学共同研究「WIDE」のプロジェクト代表。
「東大グリーンICTプロジェクト」では、ビル設備機器の通信仕様をオープン化して省エネと環境対策の実現を目指している。

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