第7回
後藤英司氏 (千葉大学大学院教授) に聞く
"植物工場が開く未来"

識者の方々が語るさまざまな提言を、スペシャルコンテンツとして発信します。
第7回は千葉大学大学院園芸学研究科の後藤英司教授に"植物工場が開く未来"について伺いました。

植物がいちばん喜んで育つ光を探す

— 後藤先生は千葉大学で植物工場分野に関する先進的な研究を進めていらっしゃいます。まずは当社を知ったきっかけからお話をお聞かせください。

いちばん最初は20年ぐらい前で、私は東京大学の高倉直教授の研究室で助手をしてまして、そのとき、研究室のみんなで、新菱冷熱さんの中央研究所を訪問して環境関係の実験施設を見せていただいたんですね。それから私は2004年に千葉大学に移りました。そして2006年には遺伝子組換え植物による有用物質生産の研究を進める経済産業省のプロジェクト (植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質推進基盤技術開発) が始まって、私はそのプロジェクトのサブリーダーを務めてました。このプロジェクトにはいろいろな企業の方が参加していて、遺伝子組換え植物工場の研究に参加していた新菱冷熱さんともプロジェクトを通じてよくお会いするようになりましたね。

— 経済産業省のプロジェクトでは大変お世話になりました。ところで先生が植物工場の研究分野に入られたのはいつ頃ですか。

大学の卒業研究は、いかに化石燃料を使わずに冬のガラス温室を暖房するかというテーマでした。オイル・ショック後は太陽エネルギーの利用がいろいろな分野で注目されまして、農業の温室でも、通常は冬には油を焚いて暖房するところを、太陽エネルギーをうまく土の中に蓄積して暖房したり、蓄熱材を温室の端に置いて昼間の暖かい熱エネルギーを蓄積し、いちばん寒い朝方には、その熱を温室の中に戻すような研究が盛んでした。

修士課程に入った頃には、バイオテクノロジーの一環として植物工場という人工的な環境で農作物を育てるのがブームになり始めました。当時、高倉教授に勧められて、温室の暖房研究から人工的な光 (照明) だけで植物を育てる基礎研究へと研究テーマが変わりました。修士課程に入ったのが30年前ですから、ほぼ30年、光や気温・湿度などを含めた人工的な環境で植物を栽培するというテーマに携わっています。

— 人工光で植物を育てると、どんな変化があるのでしょうか。

地上の生き物が生活をしていくには太陽の光がいちばん向いているといわれているんですが、この50年ぐらいの植物学の研究で、そうではないことがわかってきています。人間や動物は太陽光がいいかもしれないけれども、少なくとも植物は違って、太陽光のスペクトルがいちばん植物に合っているわけではないんです。ですから、人工光を使うと、植物の持ってる力をもっと引き出すことができるかもしれない。そういうところに期待と面白さがあります。

植物がいちばん喜んで育つ照明ができれば、植物の成長はすごく良くなり、ビタミンとかポリフェノールとか人の体にいい植物体内成分も増やせるかもしれません。この20年ぐらいでLED照明が研究に使えるようになったので、植物学者も赤、青、緑、あるいはいろいろ組みあわせて太陽光にない光を作って、それで栽培する実験を始めてます。まだ研究途上ですけども、それによって照明のランニングコストを減らしたり、いい農作物ができたりする可能性があります。

— 光の質の研究ですね。

植物は特別な存在

光質だけでなく光の強さも大事なんです。葉に当たった光の大部分は葉が吸収するんですけど、光合成に使われるのは吸収された光エネルギーの2%だけです。植物は、その2%の光エネルギーを光合成で化学エネルギーに変換して糖分を作っているんですけれども、残りの98%は熱になって植物から外へ出ていってしまっているんです。

— わずか2%ですか。もっと効率を上げる研究もあるのでしょうか。

今研究されています。光合成の能力を高める酵素がわかっているので、その酵素を作る遺伝子を植物に組み込んで効率を上げるという研究がそうですね。これまでは、すごく成長のいい品種と、おいしい味の品種をかけあわせて、光合成能力が高くておいしい品種を作る、という方法が行われていました。この方法は、受粉させて、タネを取って、栽培して、とすごく時間がかかります。そういう「育種」が何百年も続けられていますが、そろそろこの方法による品種改良は限界に近づきつつあって、いまは遺伝子を組み込む方法が期待されています。

10年くらい前、ソーラーパネルの電気変換効率は2%以下という時代があって、植物学者は光合成のほうが変換効率が高いじゃないかと言っていたんですが、その後は一気に抜かれてしまいました (笑) 。学生にも、植物のエネルギー変換効率は、携帯とか電卓についているソーラーパネルに抜かれちゃったという話をするんですが、ただし、効率は2%なんですけれど、生き物で太陽光エネルギーを化学エネルギーとして固定できるのは植物だけなんで。そういう意味で、植物は人間にとって特別な存在なので、この機能をうまく使い続ける必要があるんじゃないかと思っていますね。

— なるほど。植物にはまだまだ可能性がありますね。

次は、「世界の中での植物工場」についてです。

スペシャルコンテンツTOPへ

ページトップへ