第7回
後藤英司氏 (千葉大学大学院教授) に聞く
"植物工場が開く未来"

状況判断力を育てる

— ところで園芸学部があるのは、国立大学法人では千葉大学だけということですが?

農学部というのは、森林学科、林産学科、水産学科、畜産学科、場合によっては獣医学科があって農学部となっていますが、千葉大学には、林産と水産と畜産、獣医がないんです。森林生態系や、植林までの樹木と、造園その他、何かしら植物に関わっている分野があって、それを全部含めて園芸学部といっています。

— 教育の中で重要視されている点や、学生に求めるものは何ですか。

私が学生にいつも言っているのは「状況判断力」ですね。研究室には、大学3年後期から4年生の学生と修士、博士課程の大学院生がいますが、博士課程を卒業する学生以外は、学生が大学の研究室で勉強したことを、就職した10年後、20年後、30年後にそのまま使うということは滅多にありません。

大部分の人は、勉強した考え方とか取り組み方、実験研究するスタンスを別の分野に転用してやっていくわけです。だから、ポイントとしては学生時代に学んだことを他の分野に生かせるかどうか。ということは、学力とか知識量というより、いま何が求められていて自分が何をしたらいいかを考える能力が問われるわけで、それを私の研究室では「状況判断力」といっています。

状況判断力を高めるには、相手が考えていることを理解する力とか、やるべきことをやり通す持続力とか、周りの人とのコミュニケーションから情報収集する能力とか、いろいろあると思うんですけれど、その部分がしっかりしていないと大学で勉強したことを何も生かせないと思うんです。

— プロセスを考えたり、情報を整理したりする総合的な力を身につける、先生はそれを教えるわけですね。

失敗事例に学ぶ

そうはいってもまだ社会に出ていない学生だと、なかなか理解できません。それでどうするのかですが、実験などに失敗した場合が大切なんです。「こういうふうにすればうまくいったんじゃないの」なんて話します。うまくいかなかった実体験を材料にするのが早道なのです。失敗した学生に「早めに先生や先輩にいちばんポイントとなることや、先に考えなきゃならない事項を聞いておけばよかったんだけど、それをやらない結果、失敗した」ことをわからせます。「その時、どこまで考えたの」「なんでその時にあの人に聞いてみようとか考えなかったの」なんて終わったことをクドクドといいながら復習させるんです (笑) 。要は「次からは、こうした方がいい」というアドバイスをします。

— 失敗した方が学ぶのでしょうね。

なかには最初から失敗しないような学生もいます。家庭の教育なのか、性格なのか、小中高時代の部活動のためか、そういう状況判断力に長けた学生には「もっと勉強しろ」とか (笑) ……、別の宿題を出してます。

あとは質問の仕方です。「こういう聞き方すれば相手は100%を教えてくれるけど、そういう聞き方では50%しか教えてくれないよ」とか「大学では授業料を払っているから全部教えてくれるけど、給料もらう側になったら半分も教えてくれないよ」というような話をしたり、「就職試験でこういう話し方をすると貧乏くじを引くよ」とか (笑) 。

技術と生産物の両方を世界に輸出する

— 最後に、植物工場の未来についてお聞かせください。

環境の均一な植物工場は、一般住宅とかオフィスよりも実現が難しいわけですから、単に食べ物を作るだけに使うのではなく、付加価値の高い植物、たとえば薬用植物とか、遺伝子組換え植物というのも想定して薬成分を作る植物の生産工場にするとか、より役立つシステムに発展させなくてはいけないと思っています。

— 例えば、食べたらインフルエンザにかからないレタスとか、メタボにならないトマトのようなものでしょうか?

そういうイメージです。そういう特別な野菜を作る工場に発展していくことを期待してます。だから大学としては、植物を使ってたくさん実験をして、植物工場ではこんな植物が育てられますよとか、こういう条件を揃えれば植物のこんな物質を増やすことができますよとか、そういうデータを蓄えておいて、そのデータがあるなら本腰入れて産業化してみようという人を増やしていくのが使命だと思ってます。私の夢ですが、植物工場で野菜も薬成分も、いろいろなものが作れるようになって、いろいろな種類の植物工場が世界中に広がっていく、というのがいいですね。

特別な野菜を作る工場の研究も進んでいて、食の多様化とか、食べて健康とか、生活習慣病予防を目的にした内容が多いんです。こういう健康志向の高まりは、いずれ新興国や発展途上国でも同じように起こってきます。そのときに、日本の植物工場、しかも薬とかサプリメントの原料みたいな特別な野菜が作れる工場であれば、工場の技術も生産物も両方が輸出できるようになると思っています。10年後、15年後には確実に世界中に広がっていると、そういう未来を期待しています。

— おもしろい技術になりそうですね。

あと、まだよくわかっていないんですけれど、植物は一定のいい環境条件をずっと維持しておくと良く育つといわれているんですが、でも人間だと、同じ環境だと飽きてしまうので変化が必要ですよね。例えば、昼ごはんのあとは光の色を変えて眠くないようにする照明があったり、空調もちょっと変化させたり。もしかしたら、植物にも今後、環境変化やリズムをつけた方がいいものが出てくるかもしれません。そうなったら、ますます環境をコントロールする空調技術が必要になってきますね。そういうこともあるので、ぜひ今後も植物研究の動向をウォッチングしていただければと思います。

— はい。本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

聞き手 中央研究所長

後藤 英司 (ごとう えいじ) 氏

千葉大学大学院園芸学研究科教授。1960年生まれ。
東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。農学博士。CELSS学会論文賞、日本農業気象学会学術賞、日本植物工場学会学術賞、日本生物環境工学会学術賞、日本農業気象学会論文賞などを受賞。現在は、日本学術会議連携会員なども務める。植物と環境を研究ターゲットに環境調節工学をリードする。経済産業省の支援する「植物工場研究センター事業」に取り組み、「松戸」「柏の葉」両キャンパスの研究用植物工場などハード整備を充実して、国内農業の産業化促進に貢献しているほか、遺伝子組換え植物の植物工場研究にも取り組む。

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