第8回
坂本雄三氏 (建築研究所理事長) に聞く
"低炭素文明を目指す理由"

空調は、集中熱源か個別分散か

— 省エネルギーに対する考え方は外国と日本では違うのでしょうか。

エネルギーというのはすごくローカルなものなんです。潤沢な国と、そうでないところではエネルギーに対する考え方が違ってきます。カナダはエネルギー輸出国なんですが、太陽光発電の研究なんかもやっています。でも日本のようにゼロエネルギー住宅を建てると補助金をもらえたりする制度はなくて、省エネルギーへの取組みはあくまで自主的なものです。つまりエネルギーが潤沢な国では、そんなに省エネルギーに対する規制が厳しくありません。一方、資源が潤沢ではないドイツを例にとれば、建築関係の省エネルギーへの取組みは最先端を走っています。建物の断熱化に対してすごく厳しいのです。でも、ヒートポンプなどは日本のメーカーのほうが優れていて、彼らのヒートポンプも日本製のコンプレッサーなどを使っています。

— 日本の空調の集中熱源方式は外国と比べ進んでいるほうですか。

VAV (可変風量装置) やVWV (可変流量装置) 、蓄熱システムなどが設計通り機能している優等生の建物は、外国と比べても進んでいると思います。しかし、全部がそんな優等生ではないと思います。それより、ヨーロッパでは個別分散空調方式、日本でいう「ビル用マルチエアコン方式」、向こうでいうVRF (バリアブル・リフリジラント・フロー) が流行っています。まだ課題はあるけれども、商品としての完成度はかなり高いと評価されています。今後も増え続けるんじゃないでしょうか。

— 空調でいいますと、日本発の集中熱源方式があります。これらの方式は日本の得意な面が発揮されたものだと思うんですが。

たしかに空調のトップクラスの企業が作るシステムは技術レベルが高いですね。しかし、個別分散空調方式には、欠点もいっぱいあるけども、コストパフォーマンスに優れているという利点があります。ですから予算がない場合に有効な方式です。ヨーロッパでも個別分散空調方式がもてはやされているのは、そういう利点が大きいからです。それと、集中熱源方式か個別分散空調方式かという意味では、集中熱源方式はあまり進化してきませんでしたね。

ちょっと話は逸れますが、集中熱源方式は空調の基本ですから、僕も大学で学生に教えて、演習までやりました。しかし、個別分散空調方式については方式の名前だけしか教えなかったですね。でもいまの日本では空調で最もシェアが高いのは個別分散空調方式でしょう。そのメインの技術を教えないのは、自分でもおかしいなとは思っていたんです。国語でいったら古文・漢文だけ教えて現代文を教えないようなものです。個別分散空調方式も教えていかなければ、さまざまな空調方式の技術の発展につながりません。

— 集中熱源方式を基にした次世代技術については、当社でも検討していかなくてはいけないと思っています。

そうですね。いろいろな技術を競争させていくことが重要ですよ。たとえば、集中熱源方式ではVAVを用いることがありますが、うまく機能していない場合もあるようです。まだまだ検討すべき点はあると思います。

まだまだ省エネルギーできる

戸建住宅は、太陽光発電などを用いることで、年間で考えればエネルギー使用量がゼロになるゼロエネ住宅が出来てきています。ゼロエネ住宅はこれからどんどん建っていくでしょう。ですが、大きな建築物、特に工場関係でゼロエネを実現することはまだ難しいですね。エネルギーの消費用途という基本情報を把握することから始めて欲しいと思います。工場の空調などには省エネルギー化の余地がまだまだ残っていると思います。

— 工場のゼロエネ化は難しい課題ですね。再生可能エネルギーの利用より先に、エネルギー負荷になっている点を改善し、エネルギー使用量を減らすということをやらないといけません。

話は変わりますが、新菱冷熱さんの本社ビル (新宿区四ツ谷) の改修では、タスマニアをキーワードにした広告をお出しになっていましたね 。

— タスマニアの自然環境と空気がきれいなイメージを当社の広告にお借りしました。リニューアルした当社の本社ビルをお客様に見ていただいて、その中からニーズに合ったものを選んでいただきたいと考えています。本社ビルでは集中熱源方式を用いていますが、個別分散空調方式にかなり近いシステムを開発しています。

たいへん結構ですね。それを手頃な値段で普及させていただくと国にとってもありがたいことになります。とにかく、自分の技や技術を磨くことが日本人の生き延びる道でしょうね。

— 本日はありがとうございました。

聞き手 中央研究所長

坂本 雄三 (さかもと ゆうぞう) 氏

独立行政法人建築研究所理事長。1948年北海道生まれ。
北海道大学理学部地球物理学科卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。 旧建設省建築研究所、名古屋大学工学部助教授、東京大学大学院工学系研究科教授等を経て、2012年より建築研究所理事長に。
専門は、建築環境工学の熱環境、空調システム等の分野。国土交通省社会資本整備審議会専門委員。東京大学名誉教授。

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