第1回
江崎玲於奈氏 (ノーベル賞物理学者) に聞く
“企業における創造性”

識者の方々が語るさまざまな提言を、スペシャルコンテンツとして発信します。
第1回はノーベル物理学者の江崎玲於奈氏に、企業における創造性について伺いました。

きっかけはシックハウス

— まずは、当社との接点・きっかけですが。

室内空気汚染の改善をお願いしたのがきっかけですね。自宅を増築したところ体調が悪くなり、これは室内空気汚染が原因のシックハウス症候群だと病院で診断されました。その病院の先生からの紹介で、環境改善をやっていただいたんですね。

シックハウスというのは、かなり以前から、日本だけじゃなしに欧米でも問題になっていたと思います。それで私達は予め、建築業者には充分注意を促していたのですが、増築部がひどいシックハウス状態に出来上がり、大変困っていたところを救われたわけです。

21世紀はいかに人間が健康を保ち、寿命を長くすることが出来るかということが一つの大きな課題になっており、そのためには環境の整備が非常に重要です。その流れとして、シックハウス対策が求められ、使用する建材ももっとコントロールしなくちゃいけない。そういう環境の整備に貢献されている新菱冷熱は、非常に先端的で重要な役割を演じておられる会社だと私は思っています。

— ありがとうございます。当社が長年、力を入れて進めている分野ですので、ご評価いただき光栄です。

運命は自分で決める:大学教育における創造性

— 今日は“企業における創造性”というテーマでお話を伺ってまいります。
いくつかの大学長をお務めになられたご経歴から、まずは大学教育における創造性についてお聞きしたいのですが。

今まではどちらかといいますと学力の乏しい学生を何としても引き上げようというのが日本の教育の目的でした。しかしこれでは素晴らしくできるリーダー格の人間は育たないわけですよね。アメリカあたりでは、できる人間をうんと伸ばそうという教育をしています。もともとタレントのある人間を教育してリーダーを作らなければならないのですが、日本の教育においては、人間はだいたい同じだという仮定のもとに作られた教育指導要領に寄っているのではないでしょうか。

もっと言うと、教育というものには、先生を真似ることから始める受身型の教わる教育と自分の潜在能力を引き出す、自ら学ぶ、自主的な教育の2つがあります。受身型の教育は、新しい知識を得て、それを理解し、解析し、判断する、いわゆる分別力を養う。これは社会活動には必要です。それに対して、自主的な教育は、何が重要問題であるかの洞察力と問題に対して新しいアイディアを生み出す創造力を養う。特に日本の大学では、分別力をつけさせることを重視する傾向がありますね。ところが創造力こそ、我々の文明を進歩させる推進力ですから、科学・技術分野にとどまらず、財界・政界においても、リーダーたるものには不可欠の能力です。

私は、人間の一生というものは、自分が主役を演ずるドラマだと思っているんです。シナリオを自分で書き、シナリオ通り演じる。そのためには、自分でよく考えなくてはなりませんから、このためにも創造力が必要になります。

人間のゲノムDNAを調べてみますと、もちろんほとんど同じなのですが、人によって1000分の1ほどの違いがあり、その1000分の1の違いこそが個性を決定づけることがわかってきました。従って、人間は同じではないので、各個人に合った教育をやるべきだと思います。そして、教育においては、各人が自分を見出し、自分の能力を最大限に発揮できるような人生のシナリオを創作し、それを演じる能力を持つよう育て上げねばなりません。それが大学卒業の条件だと思うんです。運命が自分の人生を決めるのではなく、自分が人生を決めるんだ、というコンセプトですね。これが民主主義でしょう。

ところで、日本人は心の教育、などと言うように「心」という言葉を好みますが、それにちょうど合う英語は見当たりません。心という言葉には、和英辞典を引くとすぐ分かりますが、知性、Mindや、情感、Heartなどたくさんの意味があります。日本人は知と情を全部一緒にして、「心」という風に全体的に捉えるわけですね。このような日本語で代表される日本文化は、論理的分析を駆使するサイエンスの文化とは大変な隔たりがあります。このことは誰もあまり指摘しませんが、日本人がサイエンスの研究に当たって、西欧人に比べ若干ハンディになることは疑いありません。ともかく、我々が世界で生きるためには、オリンピックではありませんが、サイエンスのさまざまな分野での国際競争においてメダルを取らねばなりません。

次は、エサキダイオードと評価できる力の重要性について、です。

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