第4回
柳沢幸雄氏 (開成学園開成高等学校・開成中学校校長) に聞く
"人を育てること"

日米の違いはチェック&バランスの違い

— アメリカの教育で日本と違っていることは何でしょうか。

アメリカでは学生から教員、各専攻の専攻長、研究科長、学長といったすべての階層にチェック&バランスが働いていることでしょうね。大学の教員は、学生の成績を付けることのできる権力者なんです。単位を認定する権力を持っているから、チェックが働かなければ必ず腐敗します。

たとえば教員は、担当する講義の受講者数と、財団とか国とか外部から獲得してきた研究費の額でチェックされています。私の場合おおむね給料の80%が取ってきた研究費から来て、残りの20%は授業が開講できれば大学が給料として払ってくれるわけです。その上の専攻長も同じようにチェックされますから、そういう「外から研究費を取れる人」を下に集め、全体のパフォーマンスが上がるように人を配置するわけです。そういう仕組みなので、上にゴマを擂るだけの人は入り込めなくなっています。

しかも、これは自動的チェックで、配慮が入り込む余地はありません。例えば、研究費が取れない人にも「辞めろ」とは言わない。単純にその分の給料が出ないだけで、それでも良ければ任期が来るまで教え続けることができるわけです。

— チェックといっても第3者が評価するのではないんですね。

日本だと「公正中立な評価をする第3者に」なんてことになりますが、そんな第3者はいないんです。どこかに利害関係があるわけで、まったく利害関係のない人が仮にいたとしても、その人が利害関係の全くない組織の評価を一生懸命やることを期待するほうが無理だと思います。そこで市場メカニズムに任せるわけです。そういうチェックに加え、学生も教員の授業を評価します。その結果をすべて公開し、次の年の学生に配るんです。そして授業を受けようという学生が5人以下だと開講できないのです。日本だと、チェックされても教員が見るだけで、非公開にされてしまいます。

そういうメカニズムで教員はチェックされています。その結果、成績の評価は非常にフェアになります。この「フェア」というのは「ルールどおりやる」ということで、それが大切にされます。明示されたルール通りに成績を付ける。たとえば同郷の人には30点多く点をあげるというような偏りのあるルールであっても、参加者がそのルールを知ってさえいればそれでいいのです。またルール通りに不可も付けるので、そういうフェアな環境が学生に勉強をさせます。僕が教えた学生は週60時間くらい勉強して授業についてきて、一つの科目の単位を取るためには、積み上げると20センチくらいの本を読まねばならないような、そういう講義をしていました。

チャレンジ精神はどこから?

— 柳沢先生といえばチャレンジャーであり、闘争心が旺盛で、アイデア豊かな方ですが、そういったものはどのようして身につけられたのでしょうか。

最初から東京大学にずっといて、全員が終身雇用という環境の中にいれば、僕は怠け者だから、いまごろ仕事をやってなかったはずです (笑) 。教員生活の初めがハーバード大学だったので、新しいことにチャレンジせざるを得なかった。そして「うまくいった」という快感を知ったからでしょうね。それがなければ新しいことをやらないですね。

— 新しいことに挑戦しても、「俺についてこい」というタイプのリーダーではありませんね。

意見を吸い上げて統合することが得意だと思っています。たとえばブレーンストーミングで出たものに横串を差すというような、ファシリテーター (世話人) ですね。研究でも、従来のものを組み合わせたり分割したりすると何か新しいことができることが多くて、まったく新しいものは少ないんです。再生だけのウォークマンが生み出されたのも、機能を分けた例ですよね。

— ところで海外の大学にチャレンジする学生が少なくなっているといわれますが?

確かに一時期少なくなりましたが、ハーバード大学などへ行く例も少しずつ増えています。重要なのは、そういう大学へ行こうとする子ども本人にとっての位置づけなんです。単に「偏差値が高い大学だから行く」ということを考える生徒もいるので、「行った後で、お前はどうするの?」と言うんです。

海外への進学に挑戦するのはいいとしても、将来の生活力が必要です。だからお金と職業のことを一生懸命、高校生・中学生に指導しています。例えば、海外の大学へ行くことで失うものもあります。それは、日本の大学へ行けばできたはずの人間関係で、それは日本では大きなものです。もちろん、そのかわりに海外での人間関係ができるのですから、その場合は海外就職を考えるほうがいいでしょうね。

— 海外のほうがキャリアを活かしやすいんですね。

仮にハーバード大学へ行っても、大学を出てすぐ日本企業に就職を考えないほうがいい。社会経験のない新人が「ハーバードではこんなことをしない」なんて言う、いわゆる出羽の守、つまり「ハーバードでは、ボストンでは」なんてばかり言っている人間になってしまいがちです。それでは、せっかくグローバルな視点を持った人でも、信頼関係を築けずつぶれてしまいます。

日本に帰って企業に入るなら、いったん海外で実績を上げてからがいい。業務経験を武器に、落下傘で降りてくると、日本でも受け入れられます。いずれ次々と国際経験を持った卒業生が落下傘で降りてくるようになるといい。そんな国際人を作りたいですね。

次は、企業の人材育成法について、です。

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