第4回
柳沢幸雄氏 (開成学園開成高等学校・開成中学校校長) に聞く
"人を育てること"

やるかやらないかはリーダーが決める

— 柳沢先生はビジネス現場のご経験もありますが、企業の教育についてアドバイスをいただけますか。

先ほどのチェック&バランスの関係と似たものがあります。企業では教育といえばOJTが主流ですが、その場合は先輩の知っていることだけが教育されることになります。それでは困るわけで、新しいことは知らないというのではなくて、先生になる人も一緒に研究しなくてはいけません。

それから説明する能力が大切です。例えば、アメリカから帰ってきた当時、ちょうど日本の企業はリストラに着手した頃で、従来とは異なり、会社が人件費を固定費と考えなくなった走りの時期でした。その頃は、企業から講演などを頼まれると「金600万円也」と大書したスライドを見せて「これは講演料ではありません。聞いている皆さん、200人 × 時給の総額です。その人件費がこの講演のコストなんです」と固定費のことを話したりしていましたが、いまでは終身雇用が崩れて、人件費が固定費でなくなりました。こういう変化を企業はよく説明し切れていませんね。

リーダーには自分で物事を決めて、それを説明する力が必要です。WhatとHow、つまり何をやるのかやらないのかのWhatはリーダーが決め、それをスキルを持った専門家に説明して実行してもらう。Howの「どうやるか」は専門家や職人の役割です。

ところが日本では、下から「行けそうだから、やりましょう」と稟議を上げるんですね。だから1か月前に起案した稟議書が、決定しなければいけない期限の3日前にようやくリーダーのもとに上がってきて、決裁になったりします。下から稟議を上げる結果、戦争でいえば少しずつしか部隊が動かせないのです。下の人は権限が狭いから全体ではなく自分の管轄だけしか動かすことはできません。全力で乾坤一擲の勝負に取り組めないのが日本の組織なのです。

組織のリーダーシップとは、やるかやらないかを決めることです。もちろんHowの段階でダメを言うことがあってもいいのですが、Whatは一番高いランクの人の責任で決めなくてはいけません。そうすれば、Howのほうは何とかしてできるものなんですね。優先順位の低い事柄を後回しにすればよいのですから。日本の会議でも、会議出席者全員で決めるのではなくて、出席していた一番高いランクの人が決めると考えるようになればよいのです。会議に出席した一番位の高い人が結果の責任を取るようになればよいのです。

Whatを決める人は結果について責任を取ります。つまり、失敗したらキャリアの途中で抜けたり、報酬も半減したりする。ハイリスク・ハイリターンです。そのかわり、そういう結果の責任を取る人は、取らない人に比べて生涯給与の期待値は10倍くらい高くても社会的には公平だと思うのです。一方Howの人には、給料は低いけど終身雇用を保証します。そうやって、上の方のリーダーシップを取る人に競争させることが大切です。日本の場合、小泉改革では下の方に競争を入れてしまったんですが、それは逆ですね。意思決定をする人が競争すべきであって、結果がうまくいかなければリーダーからは外れるということです。

— 技術開発でリーダーシップを発揮するには?

技術開発の芽は現場から、協調性に富んだHowの人達、つまり専門家や職人気質の人達からアイデアが出てくることが多いと思います。その芽、いわば仮説を検証するための方法が十分練れていれば、取り敢えずやってみることが大切だと思います。松下幸之助流の「やってみなはれ」の精神です。リーダーの仕事は、芽が育ちそうにないと判断したとき、きちんと説明して、そのプロジェクトの中止を決断することだと思います。リーダーは判断責任を負わねばいけません。これはHowを繰り返していても決められませんから、どこかで上の人が決断して、下に説明して止めないといけないのですが、日本の会社は止められないんですね。日本の会社では、働いている時間の7割くらいは社内調整ばかりしています。そうやって、稟議を通そうとするのに力を費やしているのです。そういう手法ではなく、やるかやらないかをまず決め、やるとなったら全社内に指示を、メールにccで一気に流してスピーディにやる。そういう風土に変えていくといいでしょうね。

外に出すことで何かを見つけさせる

— どうしたらリーダーシップ教育ができますか。

Howを10年間ぐらいやったら、1年ぐらい「何か見つけてこい」と外に出すと、うまくいけばWhatの人になるかも知れません。見つけられない人なら、ずっとHowの人ということですね。実際に「Whatはしんどくて嫌」という人だっています。そういう人には、給料は低いけれども定年まで出す。それを、40歳位のときに決めるといいと思います。その意味で、ビジネスマンの30代の10年間は非常に重要なんです。

日本の企業では、職階が下の人ばかりチェックして、上の人にチェックが働きにくいのですが、上の人にチェック&バランスが働くと「会社の将来を背負っていくような人が、それだけの責任を背負ってやっているんだ」と下の人も感じます。そこにリーダーとしての求心力が生まれるのです。

— 開成学園のリーダーになられたのは、そういう人を育てたいと?

開成学園はいわば大統領制で、理事長・校長は外から呼んで、先生方はずっと長くいる人たちです。意志決定は、先生方が審議・合意したものを、校長が「いいかダメか」を判断し決定して責任を負う方法です。校長は、いわゆる報告・連絡・相談が仕事ですから、どういう情報が上がってくるかが大切です。だからフラッと校長室から出て立ち話ばかりしています。普段着で立ち話しながら、先生方の話を聞いたりしています。

震災以降、日本の将来が不安という子どもも多いと思いますが、こういうときだからこそ、新しい芽を育むことができると思うんです。非常にやりがいのある仕事だと思ってます。

— 本日はどうもありがとうございました。

聞き手 中央研究所長

柳沢 幸雄 (やなぎさわ ゆきお) 氏

学校法人開成学園開成高等学校・開成中学校校長。東京大学特任教授。
1947年生まれ。東京大学卒。東京大学大学院工学系研究科修了。工学博士。
ハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科では数回ベストティーチャーに選ばれる。
東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て現職に。 開成高校は、いわゆる進学「御三家」。基礎学力を重視し質実剛健の校風で知られる。

スペシャルコンテンツTOPへ

ページトップへ