第5回
嘉納成男氏 (早稲田大学建築学科教授) に聞く
"建築生産の過去・現在・未来"

BIMが開く建築生産の未来

— これからの建築生産についてはどのようにお考えでしょうか。

今後の建築は、多分野の人たちの協働によって造られていきます。たとえば銀行とかファイナンスの人といった建築の素人も参加します。加えて、企画から施工までが同時進行しますし、建築物のライフサイクルも考えていかなければならないため、プロジェクトが複雑になるわけです。そこで関係者の情報の共有化による合意形成が重要になってきます。そういう背景があって最近では3次元データを設計から管理保全までトータルで活用するBIMが脚光を浴びていると思います。

建築というのは本来、立体的な図面で考えるべきだというのが私の信念です。立体的に形があるものを2次元の図面で検討しているところに無理がある。建築を3次元で描こうというのはごく自然な話で、建築関係者以外にもわかりやすい。わかりやすさは、多分野の人々の連携を円滑に進めます。ですからBIMに向けた技術開発は非常に重要な建設産業の課題なのです。3次元で描くことは当然その作業量も多くなり費用が高くなるわけですが、それでもメリットは充分にあると考えています。

意匠、構造、設備との複雑な関係が整理されて3次元で図面化され、関係者間のコミュニケーションがよくなって、品質も良いものができるようになる。もの造りも効率よくなり、早く、安く建築物ができるようになる。それ以上にメリットが大きいのが長寿命化です。3次元の図面をうまく活用することによって、効率よくメンテナンスや改修工事を進めることができます。

今はまだ3次元で図面が描けたという段階ですが、高度な生産性向上を図るために、いずれは設計・施工までBIMを浸透させることが重要です。BIMのデータによって、良いものが適正な値段ででき、無駄なく建設できる。そこで安くなって建築生産の効率が向上するわけです。

— 設計から施工、維持管理までを、3次元情報で一元管理するのですね。現在、私どもでは、既設設備の位置情報を3次元データに読み込む技術の開発に取り組んでいます。この延長線上には自動化があり、特定の作業を機械化するとか、いろんな展開を考えています。時間はかかりますが、将来を見据えて取り組まなければならないと考えています。

その通りです。BIMが登場して、そうした未来像が描かれ、いま建設産業界ではその意欲が非常に高まってきており、各設計事務所もゼネコンも「図面の70%は3次元で」とか豪語しています (笑) 。

それから、BIMによって現在のビジネス・モデルが変わる可能性がでてきます。建築生産にBIMが入ってくると、数量情報とか今まで発注者には曖昧にしかわからなかった話がすべて詳細にわかってしまう。設備配管の本数も長さも、溶接箇所が何箇所というのもわかります。それに単価を掛けると、いままで概算でしかわからなかった話が全部詳細にわかってしまうわけで、そういう透明化された世界が前提となるビジネス・モデルが要求されてくるわけです。

— このような流れが後退することはないでしょう。いつごろ汎用的なレベルに達するのでしょうか。

新菱冷熱さんはグループに (株) シスプロという会社があって、3次元CADの基盤技術をすでにお持ちになっておられ、また開発能力も持たれています。BIMは、3次元CADソフトを単に買ってくれば使えるという段階にはなくて、設計事務所や建設各社とも自社用に開発したアドイン機能を付加して使用している状態です。つまり自社用にソフトウエアを作り込める会社でないとBIMを活用しがたいわけで、汎用的な技術となるのはこれからです。

3次元データをiPadなどのタブレットPCを使って現場で参照すれば、品質や生産性を向上させることもできると思います。いまは、取り組める企業だけが取り組んでいる段階ですが、汎用的なBIMソフトが整備されてくればその活用も広がってくると思います。われわれの大学でも学生がBIMをやろうとすると、既存のソフトだけではうまく動きません。本当に普及させるためには、もうひとつ上の段階の汎用ソフトが必要になりますね。

これからの視点

— BIMのほかにも新しい視点、新しい流れはありますか。

いまや建物は設備のかたまりみたいな時代になっており、空調や情報設備を含めると建築の中に設備が入るというより、設備が中心で、その間を仕切っているのが建材という感じになってきています。建築物は、現在100年程度を目標に造られていると思いますが、設備は耐用年数や償却年数もあるから15〜20年ぐらいで交換しなくてはいけません。したがって、建築の改修におけるキーワードは設備工事で、定期的に設備を見直す改修工事の時期に合わせて、建築の改修工事も計画することになります。このため、設備と建材とを統合したシステム部材の検討も必要とされてきています。

— 先生が推奨されているCM (コンストラクション・マネジメント) 方式はどのように進んでいくでしょうか。

日本のCMもだいぶ変わりました。昔はアットリスクCM方式で工事を受けたり、CMr (コンストラクション・マネージャー) が現場で直接管理したりしましたが、最近は建築物の調達業務の支援に力が入れられています。例えば、ゼネコンに設計施工一括方式で発注し、同時にCMrが関与してゼネコンの業務の透明性を担保するというCM業務があります。また、設計事務所とゼネコンが組んで行うDesign-Build方式においてはCMrが間に入って数量査定したり、発注単価などを比較精査したりして透明性を出します。この方式は、発注者にとって説明責任が果たせるとともに、真面目に仕事をしている設計事務所やゼネコンにとっては、その妥当性をCMrから発注者に説明してもらえるというメリットがあります。

それから、発注者が複数いるような複合プロジェクトにおいて、両方に公平なように調整するためにCM方式を活用するという例もあります。

— たしかに最近は変化していますね。複雑化するプロジェクトの中でも透明性を確保して、妥当性を理解してもらう仕組みが、これからの重要なポイントですね。本日はどうもありがとうございました。

聞き手 中央研究所長

嘉納 成男 (かのう なるお) 氏

早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科教授。1947年生まれ。
早稲田大学理工学部建築学科卒。工学博士。スタンフォード大学客員教授、日本建築学会副会長、等を歴任。日本建築学会賞受賞。
現在は、日本建設経済研究所理事、日本VE協会理事、建設業労働災害防止協会参与を務める。
建設産業、工事計画・管理手法、建築生産性などを主な研究分野として、建築工事の自動化や3D-CADのBIMへの応用などの先端的研究で知られる。

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