第6回
福田敏男氏 (名古屋大学大学院教授) に聞く
"世界で走ること"

リーダーシップは自ら動くことから

国際会議のときに「福田君、あっちのバーで酒を飲んでいるから後でもいいから来なさい」と言われ、行ってみたら、論文で名前を見る偉い先生ばかりでした。畏まって名刺を出して、いろいろ話していると、「お前、国際フレキシブルオートメーション委員会の委員長をやれ」と酒を飲んでる場で言われた。本当かなぁと思っていたら、本当にちゃんと指名が来まして、それで委員長をやりました。 国際フレキシブルオートメーション委員会の委員長なんて、めったになれないわけで、ブレイクスルーのチャンスをいただきました。人生の中では、突然ブレイクスルーすることがあります。原島文雄先生が言うには「俺は全員に平等にチャンスをやった。お前には1回だけ国際会議をやれという声をかけてやったけども、あとは全部お前がやったんだから、それは俺の知ったことじゃない」と。そういう先生でした。先生のくれた機会が次につながったわけです。

リーダーシップを発揮できるところまでいくには、あれやこれやと自分で動かないといけないし、そのために必死にならないといけません。今は笑ってますけれども、25年前は必死でしたね。

僕はいつも年上の人に可愛がってもらっていて、「ちょっと小さい会議ですけど、先生ぜひ来てください」ということをお願いしますと、快く「おう、やってやろう」と言ってもらえる。そういうリレーションシップは日常的な付き合いの中でできるものだと思います。

例えば企業の場合、委員会などのミーティングに出席する人をどんどん変えていかれるんですが、できれば変えない方がいい。アメリカの会社の場合は同じ人がずっと委員会に来られます。それでヒューマン・ネットワークを作るんです。それをしないで、「今度、役員選挙で投票してね」って言っても誰も投票してくれません。誘致するために、急に札束を積んでもダメなんです。人間として「あいつなら」と思ってもらえないといけない。そういうふうなヒューマン・リレーションシップが重要だと僕は思っています。けど、それは結果的にそうなるんであって、何かを得るためにリレーションシップを作るわけじゃありません。

リターンを求めてはいけない

リーダーシップを取るには、人と人との関わり合いが重要で、かつ、あんまりリターンを考えないことが重要です。会社だとすぐリターンを、となるけど、それでは賄賂みたいなものになってしまいます。うちのかみさんは、「リターンなんてそういうケチなことを考えちゃいけない」と怒るんです。「人が困っていたらやりなさい、ボランティアでやりなさい」というタイプなんです。

そんなかみさんに手伝ってもらって、いつも外国の人に家にも来てもらって、家でパーティをやることもあります。狭い家なんですよ。4〜5名くらいが定員の狭い部屋に30名くらい、座る椅子もないからみんな立ってもらう。手作りパーティですから、うちのかみさんが何か作って、あとはせいぜい寿司桶を頼む。かみさんは英語をしゃべれませんが、目で会話しています (笑) 。

で、僕の一番気を遣っていることは、最後の片付けです。みんな12時頃まで飲む。後をほったらかしにしておいても、次の日、誰もやりたくないですし、そこは私がやります。皿をビューッと洗う。グラスを洗う。ペーパータオルを敷いて……と、朝方4時とか5時までかかってやったこともあります (笑) 。

そこに「自分がいる」ことが大切

そういうのをみんな覚えていて、外国の人は言ってくれます。「俺はよく日本人に会うけど、家に呼ばれたのはお前くらいだぞ」と。外国では家に呼ぶのが最高の持てなしなんです。それで僕はやっていたわけです。それにレストランは高いから家でやっただけです。家で居酒屋風な、普段着のパーティをやる、という主旨です。もちろん、逆に相手から呼ばれれば時間がある限り行きます。そしてリターンを求めない。短い時間しかいられなくてもできる限り自分が行く。そこに「自分がいる」ということが重要なんです。

リターンを考えているんじゃないけど、この間、台北で開かれた国際シンポジウムに行ったら、そんな友達がたくさん来てて、「お前の講演聞きに来たよ」って聞いてくれるわけ。「前に福田の家に行ったよなぁ、今でも覚えてるよ。今度はモスクワに来いよ」って言ってくれたりする。

—コミュニケーションが深まりますね。ほかにもエピソードはありますか?

外国の人とは習慣の違いはあるかもしれないけど、それが逆に面白いということもあります。たとえばイタリアでピザを食べる。会議をやった後20名くらいでワーッと割り勘で食べに行くわけです。あちらは四角いピザです。「なに飲む?」と聞かれて「俺、ワイン」と言ったら、みんな笑う。お隣のちょっと年配の人が「違う、ピザはビールと一緒が美味しいんだ (笑) 」と。「イタリアではそうするんだ」と教えてくれるわけです。すぐ、ワインをやめてビールにするんですが、そういうことがちゃんと身をもってわかるわけです。それがバーチャル・リアリティとは違った実体験です。海外でリーダーシップを取る難しさは、習慣の違いにあるかのように言われます。たしかにそうなんですが、それを踏まえた上で、やっていくことが重要です。

僕は世界中の乾杯の言葉だけは知っているんです。乾杯してくれって頼まれるとブタペストで「アゲーシューゲドレ!」と言うとウワーッてみんな喜びます。フィンランドへ行けば「キッピス!」と言う。アラビアは「サラム!」と挨拶すればだいたいウオーッと言ってくれる。乾杯の言葉と、あとは「ありがとう」で、ほかの言葉はいりません。英語で通じます。

海外でリーダーシップをとるコツというのは、普通に普段どおり継続的なお付き合いをすることです。しかも、それをギブアンドテイクじゃなくてするんです。収支はちょっと合わないかもしれないけど、そういうことに目くじらを立ててはいけない。それが、いずれ結果的にはギブアンドテイクになるんです。そして、日本人が海外でリーダーシップを取るには、結局ヒューマン・ネットワークが必要なんです。

それは人間だからだ、ということがあります。人間はみんな似たようなものです。だから僕は、外国の人が日本に来たらみんな風呂に連れていくんです。銭湯です。「何だこれは?」って喜ぶんですね。異文化ですから。初め恥ずかしそうにしていますが、みんな喜びます。

そういうお付き合いがお互いの信頼になっていくわけですね。「トシが言うんだから」と言ってくれるわけです。人間のお付き合いというのは、結局そんなところだろうなと思います。

—人との関わり合い (リレーションシップ) があり、それが信頼につながり、機会を得てリーダーシップの場へとつながっていく。研究成果だけでなく、人なんですね。日本人同士のお付き合いと同じですね。

次は、「研究の原動力は『面白いことをやろう』」についてです。

スペシャルコンテンツTOPへ

ページトップへ