第6回
福田敏男氏 (名古屋大学大学院教授) に聞く
"世界で走ること"

研究の原動力は「面白いことをやろう」

— 研究についてお聞かせください。

研究の原動力は何かというと、人と会って「何か面白いことをやろう」と思う好奇心です。新菱冷熱さんとの共同研究では「これは面白いんじゃないか」と、そのモチベーションをいただきました。「What」というのを新菱冷熱さんからいただいて、私は「How」の方をやっていたのです。

— 先生と当社とのお付き合いは、風量測定ロボットの共同研究が始まりでしたね。

あの自律移動ロボットの研究は、いろんなところで成果が評価されているんですよ。特に良かったのが、ロボットが自分で目的の場所に移動して、その場所を決める理論です。ロボットは、まず部屋の天井の角を見て自分との距離を測り、次にロボットの持っている地図と合わせて、自分が今いる場所を確認する。それから行きたい方向を決めて移動するんですね。「自分で見て、位置を決めて、移動する」、これを移動型ロボットのセルフローカリゼーション&マッピング (SLAM) といいますが、これは非常に重要な技術で、あの研究の後、いろんな人に理論的な部分が使われています。オーストラリアとかアメリカからも同じ分野の研究成果が出ましたが、こういうビジョン・ベースド・モバイルロボット (見た情報を基に動くロボット) という分野の実用化は、実は新菱冷熱さんからスタートしているんです。

— そうだったんですか。そこまでは認識しておりませんでした。

世界中のみんなから「お前、面白い研究をやっているな」と言われました。そういう技術が今では、たとえば福島の原発でも使われているんです。中に入れたロボットはセルフローカリゼーション&マッピングでやっている。そのハシリの研究だったんです。建設用ロボットという用途・狙いがはっきりしていたことと、長期的な視野で成果をみておられたことが良かったと思うんです。

大学との共同研究とか人と付き合うというところでは、すぐに成果、成果とガチガチとやると、研究する側も窮屈に感じてしまいます。それを言わないで待っておられた。そういう社風がよかった。

— 研究課題によっては長いスパンでターゲットを捉えています。時間がかかるものはかかると思っております。

研究というのは、ご飯を炊くのと一緒で、初めチョロチョロ中パッパなんです。で最後はググーッと立ちあがる。研究というのはだいたいそうなんです。

研究者は促成栽培できない

好奇心を持って研究できる人を養成することが、非常に重要だと思います。研究者の育て方を、よく尋ねられるんですけれども、徳川家康の「鳴くまで待とうホトトギス」ですかね。はじめの時間が大切なんです。何も出てこないときというのは、実は頭の中では一生懸命ああでもない、こうでもないとやっている時間です。その生煮え以前のところを1年間かけてやるかどうかなんです。

すると「1年間かけて何やっているんだ」なんて当人は会社から怒られますよね。しかし、そこで促成栽培すると、考える力のない人間を育ててしまう。そこの中でいろいろ勉強して、研究開発はどうするものなのかということを自然に会得していくんです。

そのプロセスが重要なんですが、それをだんだんやらないようになった。日本では昔はできたんですけれども、今は余裕がなくなってしまいました。でも結局、自分でいろいろ考えて、「ああでもない、こうでもない」というところが研究の原動力になるんですね。学生にも、そう言っています。

— プロセスにおいて得られる知識、知見、ノウハウですね。

私が東京大学の生産技術研究所にいた頃に、こういうことがありました。柴田碧先生が「お前、自分で研究テーマを探せ」と言うんです。一方、もう1人いた修士の学生には「君はこう、これでこうやって、こうしなさい」だった。そうすると1カ月後の研究会で、あっちは成果がボンボン出てくるわけですが、こっちは何も発表するものがない。それで、あちらこちらに1人で行って、いろんな学会へ行って勉強させていただきましたが、1年間何も出ませんでした。

ところが、そうしていたらいろんな知り合いができた。すると、あるとき学会で、ある企業の人と数式を見ながら「これからはこういうのが面白いかもしれん」「どうやって?」と、いろいろ話していて。そのとき、ふと思いついたアイディアを持って帰りまして、ダーッと展開させました。その後5年かけて取り組んだのが私の博士論文です。

そういう自分の経験からいっても、卵が孵化するまでのプロセスをじーっと待つ、ということは大切だと思っています。余談ですが、柴田碧先生の弟さんは『されどわれらが日々』とか『贈る言葉』を書いた柴田翔さんです。

自ら体験し、考える

実は研究というのは誰も教えてくれません。僕は早稲田大学にいましたが、早稲田大学の加藤一郎というロボット工学の大先生は、もともと講義を全然しない先生で、外国へ行ってきてはロボットの8ミリ映画を撮ってきて、それを見せて講義おしまい。そういう先生だった。

それからもう1人、土屋喜一先生の生物機械の講義も面白かった。「君たち、生物体とはどういうことか……」と言って、講義室でタバコ吸っちゃいけないんですけど、赤くなっているタバコの先を観葉植物の葉っぱにピッと付けるんです。当然、穴が開きます。そうすると、葉っぱの穴から先は枯れていくとみんな思うんです。それがそうじゃない。

「生物というのはこうやってダメなところを修復しながら生きていくんだ。葉脈が穴を回り込んで、葉の先端部を生かすようになっているんです」と。それを自己組織化というんですけれども、パッと見せてくれた。「人間だと脳で壊れたところをリルーティングして、シナプスのところが再結合される。これは脳の可塑性、英語でplastictyと言います」という話を次々として「これでもう半年の授業はおしまい」と (笑) 。そういう先生なんです。そういう先生方に早稲田大学で会いまして。これがよかったと思います。

— 最後に当社へのメッセージをお願いします。

僕はぜひ「手のひらエアコン」を作ってくれるといいと思っています。コンピュータでは、大きなメインフレームだったのが小さくなって各部屋に分散し、さらに今はiPhoneみたいになったわけですから、エアコンだってパームトップくらい小さくなってもいいんじゃないかなと思います。ちょっと涼しくて、1時間も動けばいいけど、人が講演会とかに持って行けるんです。ハンドバッグに入るサイズで、汗が出たときだけ使えるとか、それをたくさん連結すれば大きなハイブリッドエアコンになります、とかね。

どこでもポータブルで持って行けて、人に冷たい、いい風を差し上げる。そういう人間のリレーションシップを高めるデバイスがあると面白い。新菱冷熱さんには、ぜひワイドレンジな視野で、発想を新たに、でも人間っぽいことをやってほしいと思っています。

— 本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

聞き手 中央研究所長

福田 敏男 (ふくだ としお) 氏

名古屋大学大学院工学研究科教授。1948年生まれ。
早稲田大学理工学部機械工学卒。東京大学大学院博士課程修了 (工学博士) 。エール大学大学院、通産省工業技術院機械技術研究所、東京理科大学、シュツットガルト大学にも在籍。自己組織化ロボット、マイクロ・ナノロボット、ニューロ・ファジィ制御、 指やマニピュレータの制御、特殊環境下のロボットの研究等を進める。知能化ロボットシステム研究の先駆者であり、微小から大規模で複雑なシステムまでを統一的に扱えるシステム研究の第一人者として国際的な活躍で知られる。IEEE Robotics & Automation Society会長、IEEE DivisionⅩ Director、IEEE Nanotechnology Council会長など多数を歴任。2010年にはIEEE「ロボティクス・オートメーション賞」など受賞歴も多数。

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