第2回
梶谷誠氏 (電気通信大学長) に聞く
"連携の力"

識者の方々が語るさまざまな提言を、スペシャルコンテンツとして発信します。
第2回は産学官連携推進のリーダー、梶谷誠・電気通信大学長に"連携の力"について伺いました。

連携で「違うDNA」を入れる

— 本日は話題の「スーパー連携大学院」などを推進なさっている梶谷学長に、企業にとっての連携の必要性や具体的なやり方をお教えいただきたいと思っています。企業は、同じことだけをやり続けているだけでいいのか、連携によって「違うDNA」を入れて形を変えていく努力をしないと生き残れないのではないか、という切実な想いが当社にはあるんですね。

まさに産学の連携は、そのためにあります。とくに「産学で共同研究をやりながら」という新菱冷熱の例は理想的で、いま進めている「スーパー連携大学院」でもそうしたいんですよ。というのは、アカデミック分野しか知らない博士じゃなくて、視野が広い博士が育つからです。

また、それは企業にとってもメリットがある。共同研究の成果が得られるのと同時に、派遣した社員も学位が得られるので、人材育成も同時にできる。だいたい研究自体は成功率がそんなに高くないんですが、仮に失敗しても、人が育つメリットを企業は得られるわけです。

— 私ども新菱冷熱は、いろんな業界と連携していかなくてはならない商売です。ですから、たとえば医薬品とか、半導体とか設備投資が活発になるという動きを捉えて「こんな空調空間を」と提案していかないといけないんですが、その空調空間の実現方法について誰かが詳しく教えてくれるわけじゃないので、勉強して情報を取り込まないといけません。たとえば今後有望とされるリチウムイオン電池の製造工場では、露点温度マイナス60度とかの空気中に水分をほとんど含まないような環境を省エネルギー、省コストで供給する技術が必要なんです。こうした例のように、とくに先端技術分野では特殊環境を求められることがありますが、そういう特殊な技術は自前だけじゃなく、大学と連携したりして「違うDNA」を入れながら作り上げていくことが必要だと考えています。

そういう産学連携については、新菱冷熱は「進んでいる会社」というイメージがあります。研究所の付属施設にゲストルームがあったりして、おそらく経営陣に理解があるんでしょうね。

— 恐縮です。かなりの大学へ研究に出ています。それは同業他社に優っているかもしれません。研究員のうち社会人ドクターが11人になりました。

それは素晴らしいですね。

連携のメリット

新菱冷熱とは、平成元年に新菱冷熱に勤めている電通大OBの紹介で当時の私の研究室を見学いただいたのが始まりでしたね。その後、建設ロボットの共同研究を続けた研究員の方が博士号を取られて……。あのとき一緒に研究した建設ロボットは、役に立ちましたか?

— はい。たしかに建設現場で自律走行するロボットというのは難しかったのですが、そのころ研究した技術を基にいま、墨出しという「位置を計測するシステム」を実際に使っていて、そこに成果が活かされています。

そうですか、それはうれしいですね。企業は「産学連携」というと研究委託をすることが多いんですが、それだけではダメで、新菱冷熱のように共同研究するのがいいんです。人材育成がセットになるからですね。一緒に研究していると二次的効果があって、先生の人脈、学会の人脈、知り合った学生が他の企業に行って人脈ができるとか、いろいろなメリットが得られます。

— 大学の先生にとって企業と連携するメリットはあるんですか?

ありますよ。感じない人もいるけど (笑) 、研究テーマ発掘のきっかけになるんです。世の中にはいろんな問題があるのに、それが大学内にいるだけで企業と付き合わないとわからない。学者にとって、研究テーマは大事ですからね。

— 会社の規模に関わらずどんな企業でも共同研究は有効でしょうか。

中小企業の場合は体力がないとか、お金が出せない、なんていう事情があります。それから、課題の規模が小さいので大学の研究に結びつかないということもある。先生の方は「そんな研究しても論文にならん」などと考えるわけです。また産学共同研究は、学生を使ってやるので研究期間が長くなるんですが、企業の方は「半年で結果を」なんて考えても、学生が動けないんですね。

電通大で作った産学官連携を支援する株式会社キャンパスクリエイトという会社はそんな事情を知っているので、そのあたりの調整をしながら、両者を仲介して先生と企業をマッチングしています。なかには、わがままな先生もいますしね (笑) 。場合によっては、最初から共同研究ということでなく、当初は取り組みやすいコンサルタント契約にして、一緒にやっているうちに共同研究へ進む、とか……。

そういうことで、最近は大企業だけでなく中小企業との例も増えてきています。

次は、産学連携の具体的な進め方について、です。

10人の識者が語る人・技術・社会TOPへ

ページトップへ